第64話 風魯太守計画 Ⅰ

 

「風魯大将軍、君はどちらの姿が本当なのだ・・・」


 孫権は深いため息をつく。


 「どちらの姿がと言うのは・・・?」


 「もういい、下がり給え。風魯大将軍」


 俺はなぜだか孫権に敬遠されてしまった。

確かに本題の劉備との面会を忘れて帰国してしまったのは反省しているが、そもそも俺に期待している方がおかしいと思う。


 (まぁ、失敗した俺が言えることではないか)


 そんなことを思いながら俺は引き下がる。


 

 「魯粛よ、君は風魯大将軍についてどう思う?」


 孫権は軍師の一人である魯粛に尋ねた。


 「風魯大将軍は残念ながらあの通り、馬鹿な人物だと思います。もはや重用すべきでもないし、そもそも相手にするべきでもないかと」


 と彼は持論を述べたが、孫権は家としての恩もあるので、


 「風魯大将軍には衣食住だけ充実させておいて、後は自由にさせておこう」


 と命じたのである。



 

 そのころ、荊州の劉備は・・・


 「あなたはもしや、臥龍先生と称される方では・・・!?」


 新野へ戻る途中にある浪士とすれ違い、何かその魅力を感じて話しかけていた。


 「私はそんなに畏れ多い人物ではありません、一介の浪人です」


 男はそう答えたが、諦めきれない劉備が名前を聞くと、


 「私は徐福じょふく、字を元直げんちょくと申すものです」


 と答え、それを以って去ろうとしたが、劉備は彼のただならぬ才能を感じ取り、


 「元直殿!私はあなたのような逸材を探していた!もちろん、臥龍先生に出会えればそれに越したことはないと思っている。ただ、現状臥龍先生の実名も知らないし、

どうなるかも分からない。昨今の緊迫した状況を考えても、あなたが必要なんです!」


 劉備自ら頭を下げて彼を迎えようとした。

それに徐福は初めこそ固辞していたが、劉備の熱意に心を動かされ条件付きで受け入れることに。


 「私は劉備殿が求めるには足らぬ人物です。だから、あなたが求める人物を手に入れたなら、私はあなたの下を去ります」


 この条件に劉備としてはずっといてほしいと思うのと同時に、必然的に現れて颯爽と消えようとする、何か美しいものを感じたのである。


 「わかりました。約束します」


 「それなら」


 こうして徐福という男が劉備の軍師として迎えられた。

その後の徐福の働きは目を見張るものがあり、劉備軍に兵法や訓練方法の一新などの新しい風を吹き込ませたのである。


 そして、曹操配下の呂曠りょこうらが劉備など恐れるに足らずと新野に攻め寄せてくると、

徐福は敵陣形の弱点を見破り一軍を突入させることで敵を攪乱し、総攻撃を以って劉備軍を大勝利に導いた。


 なお、この戦いは曹操軍5千に対し劉備軍は半数以下の2千であったといい、徐福の活躍あっての勝利である。


 「これは徐福殿あっての勝利だった。ありがとう」


 劉備は徐福の知略を称え、感謝の意を示した。

だが、徐福はその言葉を受け取りつつ、こう述べる。


 「我が君、重要なのはこれからです。曹操軍は屈辱的な敗北を喫しましたから、いつか報復に来るでしょう。その時は間違いなく今回より大変な戦になります」


 徐福は既に一歩先を見据えていた。


 なお、この徐福という男は後に名を改めて、徐庶じょしょと名乗るのである。


 

 ※人物紹介


 ・徐庶:元の名を徐福、字を元直といい、劉備の初めての軍師となる。実は司馬徽の弟子でもある。

 ・呂曠:曹操配下の武将、元は袁紹配下、この戦いで趙雲に討たれる。

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