第55話 大将軍たる所以 Ⅳ

 「敵兵は山頂にいるぞ!我らが騎馬隊、駆け上がれいっ」


 反乱軍の大将、王進の合図を受けて精鋭騎馬部隊が

樹木の少ない東側の斜面を駆け登る。

 この斜面は石切り場なので少々ゴツゴツしていたが、

勢いに乗る馬には関係なかった。


 (て、敵が駆け上がってくる・・・!)


 いくら山の上にいるとは言え樹木などの障害物が少ないところなので、

俺は弱点を突かれて慌てる。

 そして、敵が迫ると俺は山の西側へと逃亡。


 「風魯大将軍が動いたぞ!ついていくのだー!」


 その俺を追いかけるように味方の兵士が移動。

その時に斜面の上にある石積みに兵士が激突した。


 ゴロゴロガラガラ・・・!


 その衝撃で安定性を失った石が雪崩を打つように斜面を転がり落ちる。


 「な、なんだこの轟音は・・・!?」


 「見てください!前方から大量の岩石が転がり落ちてきますっ」


 敵の騎馬隊はこの岩石に蹂躙され前方が壊滅。

さらに生き残った馬がその轟音で興奮し、他の騎馬兵に襲い掛かる。


 「落ち着け!落ち着けったらっ!」


 敵兵は必死に馬を落ち着かせようとしたが声を掛ければ掛けるほど

馬は興奮し騎馬隊の後方を蹂躙した。



 一方、山の西斜面では敵の歩兵部隊が森林のなかを進んでいる。


 「どうやら東斜面の部隊が落石攻撃で壊滅したそうですぞ!」


 「え、な、何!?先ほどの轟音はその音であったか」


 「我々も気を付けないと・・・」


 敵兵同士でそんなことを話していると、急に樹木が無くなり視界が開けた。


 「むむ、この辺りは伐採が進んでいるようだ」


 そこは斜面の上部で過去に木々を伐採したことがあるため、

山頂まで遮るものがない。

 これは通常の攻撃では敵兵に有利だが、落石攻撃を受けたら

ひとたまりもないところだ。


 (ふむ、気を付けて進軍せねばな・・・)


 敵兵は先ほどのことがあったため、慎重に歩みを進めていた。

しかし、俺の姿は既に山の西側にあり・・・


 「ひぃぃ!こっちからも敵が来る!!」


 俺、風魯は再び慌てふためき西側に踵を返す。

それに多くの兵士が従ったので、またしても軍団の大移動が。


 「風魯大将軍に従うのだー!」


 移動する兵士の一人が誤ってぶつけたことにより

松明が倒れて積んであった伐採所の丸太に引火。

 さらに突風が吹いて燃え盛る丸太が斜面へと落ちていく。


 「ひぇぇっ!燃えた丸太が転がり落ちてくるぞー!!」


 東斜面を登っていた敵兵をその丸太が直撃し、

敵兵は長い丸太が入り込まない森林の中へと入った。

 しかし、燃え盛る丸太が衝突した木々にも次第に引火し、

また突風が吹き続けたことによりあっという間に山火事に。


 「逃げろーっ」


 敵兵は我を忘れて逃げ下り、そのままどこかへと逃亡。

さらに敵軍の本営もまた大変なことになっていた。


 「う、馬っ!こっちに来るなっ」


 先ほど騎馬隊を壊滅させた無人の馬が本営へ逃げ帰る敵兵を追いかけるように

突入してきたので、本営も混乱の極致になってしまったのだ。

 そしてその大騒ぎで大将である王進が乗る馬も興奮し、

乗り手の王進の巨体を放り投げてしまった。


 「む、無念・・・」


 体をひどく打ち付けた王進はたまらず絶命。

大将の死で反乱軍は散り散りとなり、俺は奇跡的な大勝利を収めたのであった。


 

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