第33話 丞相になる男 Ⅲ

 曹操という男は死なない。

例え何があってもその持ち前の強運で生き延びてしまう。


 ある日、曹操は荒廃した洛陽から許昌への遷都を促して実現させると、

そのまま宛城の張繡に攻めかかった。


 「ひぃぃ、曹操の大軍に攻められたら敵わない、降伏だっ」


 張繡はほぼ戦うこともなく降伏し、曹操の配下となる。

だが、張繡の軍師になっていた策士、賈詡は曹操退治を考えていた。


 (よし、この方策しかあるまい・・・)


 賈詡は張繡に秘策を伝えると、宛城に曹操を招き入れる。


 「いやいや、今日は是非宴に参加願いたいと思いましてな」


 「そうか、ぜひとも参加しよう」


 そして、宴もたけなわとなった時、

事前に謀っていたことを実行する。


 「皆の者っ、出あえ出あえ!!」


 曹操を配下の兵士で包囲したのだ。

曹操絶体絶命かと思われたが、その後の乱軍の中で生き延びてしまう。


 「はぁ、はぁ―」


 彼は手傷を負いながらも宛城を抜け出して許昌に帰還。

曹操は勢力を盛り返して、追撃してくる張繡の軍勢を打ち破ったのである。


 その後、曹操は玉璽を根拠に皇帝を自称した袁術を打ち破り、

袁術は淮南より逃亡。

 曹操の勢力は揺るぎないものとなった。


 さらに勢いに乗った彼は長安に籠っていた李傕と郭汜も討ち取り、

曹操は絶頂を迎える。


 「ワハハハハ!!」


 曹操は笑いが止まらない。

また、それを俺らに見せつけるから気分が悪いものだ。


 そのころ、劉備は呂布に奪われた徐州の奪還のため、

曹操に助けを求める。

 これに曹操は大軍を派遣し、呂布を追い詰めて

籠城策をとった呂布に対して郭嘉の策で水攻めを敢行。


 「うぬぬ、水位が上がってくるぞ!」


 城下を流れる川を下流でせき止めたからたちまち大水が城を襲う。

これには呂布の軍師である陳宮も困り果てた。


 そんな中、曹操に内応した呂布の家臣がやけ酒に酔っている

呂布の巨体を縛り上げて曹操に献上。


 また、同時に赤兎馬や軍師の陳宮らも生け捕りにされたのである。


 呂布と陳宮は処刑され、名馬である赤兎馬は曹操の所有物となった。

曹操が一強体制を極める中、献帝はそれを苦慮し、


 (曹操の行いは朕には見苦しい。どうにかならないものか・・・)


 と考えていると、その禁裏に曹操が現れてこう述べた。


 「陛下、近頃は気候も良く絶好の狩猟日和でございます。

ここは陛下の主催で許田の猟を行い、皆を集めて楽しめば

陛下の気も晴れましょう」


 彼は気を晴らすため猟を進めた。

その溜まった気が曹操に対する苦慮であることも知らずに。


 「・・・うむ、しかし・・・」


 献帝は中々、足を踏み出せなかったが、曹操の権力が有無を言わせない。

結局、献帝主催で許田の猟が行われた。

 なお、この催しには劉備一行も参加している。


 いや、むしろ献帝が劉備の同行を要望してのことだった。

劉備は曹操と共に拝謁して以来、献帝にたいそう気に入られていたのだ。


 こうして、許田の猟が始まったが開始早々、献帝の方へ向かって鹿が突進。

帝は慌てふためいて矢を放つこともできなかった。


 さぁ、献帝のピンチ。

これに同行している俺は弓矢を放ちその鹿を射止めるのだが・・・

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