第34話 丞相になる男 Ⅳ
猟場一帯にいる者たちから歓声が上がる。
俺、風魯の放った矢が鹿を射止めたのを
遠目からみていた群衆は献帝が放ったものと勘違いし、
帝の弓術を称賛しているのだ。
まぁ、俺も帝の成果になるのならと特に俺が射止めたことを
アピールはしなかった。
しかし、目立ちたがり屋の曹操が暴挙に出る。
「あの鹿は俺が射止めた!!」
と大声で成果を横取りにして群衆の前にしゃしゃり出たのだ。
一転してその場が静寂に包まれた。
例え曹操が射止めたとしても、そこは帝を立てるのが筋であろう
と皆が思っているからである。
これには劉備と桃園の誓いで義兄弟になっている関羽も、
(ふざけるな!この曹操め・・・!)
と刀を今にでも抜かんとして劉備に制されたほどだ。
もちろん、俺もたいそう不満である。
俺のを取られただけなら構わないが、せっかくそれを帝の成果にしたのに
それを横取りするのだから。
そして許田の猟が終わり、皆は解散となった。
もちろん、献帝や俺も都許昌へと帰る。
だが、その帰りの道で俺は帝にとんでもない質問をされたのだ。
「風魯は曹操を成敗するにはいかがするべきだと思う?」
帝は囁くように尋ねてきた。
当然、俺は答えに窮す。
(そ、曹操を殺す!?とんでもない、あの曹操は何があっても生き延びそうだ。
それで失敗に終われば必ずこちらが殺される!)
だが、答えないわけにもいかないので、
一応ここは暗殺計画に賛成という態度を示す。
「依然として曹操を嫌う者が数多くいますし、漢王朝を再興したいと
願う者も多いはず。となれば味方を一人でも多く作ることが必要かと」
俺は適当に答えておけば良いものを具体的に細かく述べてしまった。
恐らく俺の中にある曹操への恨みがそうさせたのであろう。
「うむ、確かにそうだ」
この日の話はこれで終わったが、その後も献帝との会話を忘れることはなかった。
(帝は本気なのか・・・?だとすれば一大事だぞ・・・)
しばらくの間考え込んでいると、
その様子を心配した妻が話しかけてきた。
「どうされましたか?何か近頃様子が変ですが・・・」
「ああ、陛下から直々に大事な相談を受けてな」
「あらら、それは大変。曹操を成敗するとなると・・・」
「ああ、そうだよな・・・って、なんでそれを知っている!?」
俺は飛び跳ねるように驚く。
それに彼女は・・・
「なんでもなにも、寝言で全部話しておりましたよ」
と正直に答える。
まさか、寝言で言っていたなんて・・・
「ああ―・・・この話は絶対秘密にしてほしい」
「そなたの兄上にも絶対言わないでおくれ!」
俺は董卓の娘の経験から顔を青くして懇願する。
でも、彼女は密告する気などさらさらないようで・・・
「絶対に言うものですか。死んでも言いません」
「寝言で語ってしまうあなたとは違いますから」
「ああ、それは良かった」
俺はひとまず安堵したが、かといってずっと後回しにしている訳にもいかない。
なぜなら、この計画は着々と進行しているからである。
そして、そんな計画があることを知らない曹操は
自らを丞相(現代で言うところの首相)と名乗り中華一帯を治めた。
果たして、絶頂を極める曹操が暗殺される日は来るのであろうか・・・
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