第25話 董卓成敗 Ⅲ

 俺は今年で34歳になった。

この時代に来てからおよそ8年、長いようであっという間である。


 そんな俺は蟄居になった時に董卓の娘と離縁して以降、正室を置いていなかった。

 さらに言えばこの一夫多妻制の世の中において俺は女子一人、周囲に置いていなかったのである。


 (まぁ、別に欲しいなんて思わないし寄ってくる女性なんて皆無だし)


 なんて思っていたが、この曹操のもとへ来て落ち着くと

なにかさみしい気分になってきた。


 そんな矢先である。


 俺は曹操の領内にいる名主のところの娘にまたしても一目ぼれしてしまった。

決して美人というわけではない(失礼だけど)。

 だが、非常に落ち着きがあって彼女の周りだけ時がゆっくりと流れるようだ。 その感じが俺にはたまらない。


 (特にこれまで多忙だったから、彼女といると癒される・・・)


 俺はそれとなく周りをうろついていたが、意を決して話しかけてみる。


 「あのぅ・・・」


 「はい、なんでしょう・・・」


 「好きです。付き合ってください!」


 俺は勢いのままに言ったが、今更思う。

この時代に付き合うとかあるのかな・・・?


 とにかく、俺は彼女の答えを待った。


 「付き合うですか・・・、何に?」


 (や、やっぱり通じない・・・!)


 俺は意を決した以上、今更もじもじしても仕方ないので、

言い方を変えてはっきりと告白する。


 「あなたのことが好きです。結婚してください!」


 これに彼女はしばらくの間黙っていたが、

遂にゆっくりと口を開く。


 「あのぅ、あなた様は確か曹操殿麾下の将軍様でおられましたよね?」


 「は、はい・・・」


 俺は包み隠さずそう答えた。

今日に限ってはこのおっとりとした間合いが俺を焦らす。


 「では、その将軍様に求愛されたら、この私に断ることなどできません」


 彼女の返答に俺は今更ながら身分の差を痛感した。

だが、こうなった以上は自邸に招いて喜ばせたい。


 「また、日を改めて来るからそれまでに自らの意思で

判断してほしい」


 「別に断られたって俺は構わないから」


 俺はこう言いながら一先ず自邸に戻るのである。


 

 

 丁度そのころ、都長安の周辺は混乱の極致にあった。


 一時は董卓を成敗した呂布が長安一帯を制したが、

すぐに董卓の旧臣である李傕りかく郭汜かくしらが反撃し、

あの剛勇を誇る呂布もなぜか力なく敗れ去ってしまったのである。


 どうやら呂布がある女性の死で気落ちし、剛勇を少しも発揮できなかったという。


 その女性は、俺の妹の貂蝉だったりするのだが。


 まぁ、俺も彼女の美しさに見惚れていた一人だが、つまるところ俺の妹だから恋愛なんてあり得ないし、それに途中から存在を知ったくらいだからそんなに思い入れもない・・・


 いや、あの美女が亡くなってしまったのは凄く悲しい!


 ・・・いずれにせよ、貂蝉のご冥福を祈るのみである。

あ、そうそう、俺が一目惚れした彼女には兄がいる。


 その名前を于禁うきんというのだそうな。

まぁ、どうでもいいのだが。



 ※人物紹介


 ・李傕と郭汜:董卓の旧臣、董卓ほどではないが悪政で知られる。

 ・賈詡:策士、李傕から張繍、そして曹操と主君を変えて活躍する。

 ・于禁:曹操配下の名将。

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