第22話 貂蝉という美女 Ⅳ

 「将軍、長安の王允という者から書簡が届いております」


 久々に俺のところへ顔を出した諸葛瑾が渡してくれたのは、

都長安の王允という男からの手紙。


 (はて、なんの手紙だろうか?)


 俺は首を傾げながらも書状を読む。

すると、そこには急ぎ長安へ上ってきてほしいと書かれていた。


 (・・・?)


 俺はとにかくこの手紙を怪しむ。

長安は今、董卓が治めているが、その董卓を倒すために集まった

諸侯の一人である俺に召喚状を出すということは

俺を暗殺しようとしている様にしか見えない。


 (これは無視しておいた方がいいな)


 俺はそう思いながら眠りにつくが、その時ある夢を見た。


 それは長安にいる絶世の美女が俺を呼んでいる、というものだ。

そして、翌朝になり俺の気は変わる。


 (夢に出てきたということは、何かあるような気がする)


 こうして俺は江南を出発し、長安へと向かった。

董卓の勢力圏まで来ると、関所の門番に止められてしまったが、


 「これなるものは我、王允の知人であるからお通しせい」


 とそこへ現れた王允によって通されて、

共に長安へと向かう。


 「王允殿、この俺を呼びだすなんて何の用でしょうか」


 その道中に俺は王允に聞いてみた。

すると、彼は言う。


 「あまり大声では話せませんが・・・」


 と董卓殺害計画を明かしたのだ。

驚く俺に王允は構わず続ける。


 「しかしだな、貂蝉が董卓も惚れさせる予定なのだが

彼女は董卓の気持ち悪さに耐えかねて彼に近づこうとしないのだ」


 「はぁ」


 俺はその話を聞いて思う。

だからといってなんで俺を呼んだのか、と。


 「君は貂蝉の兄と聞いているから彼女を説得してほしいのじゃ」


 「・・・へ?」


 俺の脳内に突然、理解し得ないものが入ってきた。

俺も貂蝉という美女の名前は存じ上げているが・・・


 「今・・・、なんと言いましたか?」


 俺は思わず聞き返す。


 「だから、兄として妹の貂蝉を説いてほしいのじゃ」


 ・・・・・・?



 ええええええええー--っっ!!!!!


 (ちょ、貂蝉が俺の妹だってぇ!?)


 俺の脳内は混乱を極めたが、

それが落ち着くと、貂蝉にそんな思いなどさせたくないという

情にかられた。


 (何とかして断らないと・・・)


 俺は断る方策を考えたが、ここで変に断ってはあの悪人

董卓を成敗できないではないか。


 結局、葛藤している間に王允の屋敷についてしまい、


 「お久しぶりです、兄上」


 「・・・・・・!」


 そこにいる彼女の美しい瞳が目に入ってしまった。


 (こんな目で見られて董卓のもとへ行けと言える訳がない・・・!)


 俺の情は悩みから確信へと変わる。

この娘に嫌な思いをさせるわけにはいかないと―


 「王允殿、少し話がある。よろしいか」


 「ああ、ではこの奥でゆるりと」


 俺は王允に断ると腹を決めて奥の間に入るのであった。

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