第21話 貂蝉という美女 Ⅲ

 王允が貂蝉を用いて董卓殺害を準備していたころ。

俺は孫堅の治める江南に身を寄せていた。


 「これは本当にかたじけない」


 「いやいや、遠慮には及ばぬ。ゆるりとしておられよ」


 彼は俺を客将として迎え、もてなしてくれた。

今になってあの印璽の重要性を理解した俺に

孫堅は口々に謝意を述べる。


 「本当にありがとう。この恩は大きくて返しようもないが、せめて我々の接待を存分に受けてほしい」


 彼は恩を返すようにと部下に改めて命じた。

その部下たちは玉璽の件を知らないが、主君の言う通り

身の回りのことまでやってくれる。

 そんなある日のこと・・・


 「風魯将軍、一つお願いしたい儀がある。よろしいか」


 「はい、なんでしょう」


 孫堅は人払いをすると俺に近づいて話し出す。


 「将軍が連れてきた諸葛瑾とやらはいまいち気に入らない。言っていること正論なのはわかるが、奴は何分しつこくてかなわん」


 「ああ、それはとんだ人物を連れてきてしまい申し訳ない」


 俺が頭を下げると、孫堅は滅相もないとばかりに手を振る。


 「わしとしても将軍が連れてきた以上大事に育てたい。

だから、彼を風魯将軍の直属として一先ず育ててやってほしいのだ」


 「はぁ」


 俺は内心、


 (あの孔明の兄と聞いていたから優秀だと思っていたが、

そんなに駄目だったのか)


 と諸葛瑾に失望したが、連れてきた以上は育てなければならない。


 「わかりました。俺が連れてきたのですから、責任をもって使える人材にしてみせます」


 俺の返事に彼はたいそう満足し、

後日諸葛瑾を引き合わせると言って帰っていった。


 

 そして数日後・・・


 「風魯将軍、これからよろしくお願いいたします」


 諸葛瑾青年が孫堅に連れられて姿を現し、

孫堅はそのまま彼を置いて戻っていく。


 俺はしばらく身の回りで仕えさせた。

とても手際がよく少し大事な仕事を任せても難なくこなすのだが。


すぐに孫堅のいう意味が分かってきた。


 「将軍、ここはおかしいと思います」


 「これはこうあるべきではないのですか?」


 諸葛瑾青年は相当頭が良いようで常に最善と思う方策を見つけるが、

きっぱりとそして何度も指摘をするので孫堅は頭にきたらしい。


 入ってきたばかりの若者が偉そうに指摘したら当たり前のことである。


 そこで俺はこう諭す。


 「君は相当頭がいい。しかし、指摘することが多すぎる。

特に新入りの君が偉そうに言ったら、孫堅殿が耐え切れなくなるのも分かる」


 彼は俺の言葉を静かに聞いていたが、

言い終わるやいなや、反論を展開した。


 「将軍、私が言っていることは間違っているのでしょうか?

私にはそうは思えません」


 「ああ、確かに間違ってはいない。だが・・・」


 「だったら、それを取り入れない孫堅殿が悪いのです」


 「・・・はぁ」


 俺はため息に近いものを吐いた。

しかし、説得を諦めるわけにもいかない。


 「言っていることに間違いはないが、伝え方が間違っている」


 「えっ」


 俺が伝え方についてアドバイスすると、諸葛瑾青年は少し俯いてしまったが、

彼の立ち直りは早いものである。


 「では、将軍の言う通り、思いついたうち重要なことだけを話すようにします」

 「あと、話し方もしつこくなりすぎないよう気をつけます」


 諸葛瑾青年は一度話すと物分かりもいいようで、

以後彼をそばに仕えさせても特に嫌にはならなかった。


 こうして俺は諸葛瑾を孫堅のもとに送り戻す。

孫堅は初めの方こそ疑っていたが、次第に重用されるようになり

孫呉で出世していくのであった。

 

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