第20話 貂蝉という美女 Ⅱ

 俺が孫堅のいる江南を目指していた頃、

洛陽にいる反董卓連合は仲間割れにより崩壊していた。


 遂には盟主の袁紹まで自領に戻ってしまったので、

他の諸将もなすすべなく帰還していく。


 その様子を見て、これぞ思うツボと笑うのは董卓とその腹心である李儒。


 「なるほど、長安に遷都したのはこういう狙いだったのか」


 「そうです、あいつらは烏合の衆なのに加えて盟主が袁紹ごときでは、

長く諸侯をまとめきれないと思ったのです」


 「さすがは李儒だ」


 二人は長安にあって依然、献帝を擁しておりその権力は揺るぎないものだ。


 だが、それに陰で反感を抱く者も多い。

特にこの男、王允おういんなどは顕著である。


 (董卓め、今に見とれ。その図太い首を刎ねてやるわ)


 彼は天にそう誓ったが、何分この男が董卓の周りにいては

どうにもならない。


 そう、呂布である。


 一時期、迷いをきたしたこともあったが、今ではすっかり忘れてしまったようで董卓の護衛に努めている。


 (・・・よし、こうなったら彼女にやってもらうしかない・・・!)


 王允はそう決意すると、自邸に戻ってある女性を呼び出した。


 「おーい、貂蝉ちょうせんはいるか」


 彼は貂蝉という女性を呼んだが、返事がない。

少し耳を澄ませていると、どこからともなく泣き声が。


 「おお、どうした貂蝉。そんなに泣き崩れて」


 王允が見つけた貂蝉は草むらに隠れて号泣していた。


 「王允さま・・・」


 絶世の美女といわれる彼女はその麗しい瞳で王允を見つめる。


 「何か悲しいことでもあったのか」


 「はい・・・」


 王允は彼女の前にしゃがんで話を聞く。

彼は貂蝉が幼いころから親に代わって育ててきたので、

その愛情といったら親子に近いものがある。


 「実は・・・、漢王朝の行く末を案じておりました」


 彼女は言う。

董卓に牛耳られた漢王朝の行く末は良きものにならないと。


 「確かにそうだ。・・・実は今日、そなたを呼んだのは

その漢王朝を救うためなのだ」


 「え、漢王朝を救う?もしかして董卓を排除する・・・」


 「しっ、静かに!董卓の一味にでも聞かれたらどうする」


 王允は貂蝉をたしなめたが、彼女の言ったことは合っている。

どうやって董卓を殺すかというと・・・


 「董卓と呂布を争わせる」


 彼は貂蝉にそう伝えたうえで、

その方法を説明した。


 「そなたには命を捨ててもらわなければならないが、

董卓と呂布、双方に”あなた様とずっと一緒にいたい”と言って

惚れさせる。そのうえでわしが呂布を唆せば”貂蝉のためならば”と

董卓を殺すであろう。そしておまえには自ら命を絶ってもらう」


 「・・・・・・」


 王允の言葉に貂蝉はしばらく黙って聞いていたが、

遂に顔を上げて彼に言う。


 「わかりました。それで漢王朝の政が正常に戻るならば、私は命を惜しみません」


 「そうか・・・、そうか・・・!」


 彼は貂蝉の肩をさするように軽く叩く。王允も泣きそうであった。


 こうして腹の決まった二人は満を持して呂布を自邸に招き、

宴を開かせて盛り上がったところで彼女を呂布の前に見せる。


 「呂布将軍、今日はゆるりとお楽しみくださいませ」


 「・・・・・・!!」


 すると案の定、呂布はあまりにも美しい貂蝉の姿に

惚れてしまった。

 そして、王允がもしよければ後日、嫁入りさせますがと言うと

呂布は断る理由なんぞ見つからない。


 「そうか!それはありがたい!!」


 とその日をウキウキしながら待ち望むように。


 (さぁ、いよいよ次は董卓だ・・・!)


 王允の作戦は対董卓に移っていくのであった。



 ※人物紹介


 ・王允:漢王朝の役職、三公の一つ、司徒を務める人物。

 ・貂蝉:絶世の美女、中国史における四大美女の一人。

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