第17話 長安遷都 Ⅲ

 董卓の遷都令を受けて洛陽は人馬が慌ただしく動き回り、

上や下にの大騒ぎである。


 この情報は当然、諸侯のもとにも届く。


 「董卓め、わしらから逃げる気か」


 盟主、袁紹は怒りを交えて呟いた。


 「しかし、ここから長安へ直接行くのは厳しいでしょうなぁ」


 諸侯の一人、馬騰がこぼしたように今陣取っている洛陽の東から

長安までの間は急峻な山々によって遮られている。

 よって、諸侯の軍勢は洛陽を一先ず落として、

そこから長安に向かわなければならないのだ。


 もちろん、その間にも山はあるが直接向かうよりは遥かにましである。


 「うむ、よって洛陽経由で行くしかあるまい」


 袁紹はそう判断し、他の者も異論はなかったが、

議論になったのは洛陽に迫るタイミングである。


 「ここは迅速に洛陽を攻め、董卓が逃げる前に叩くべきです」


 曹操ははっきりと急ぐことを進言したが、

俺は嫌な予感がしてならなかった。


 「曹操殿、軍を急行させるのは危険だと思います」


 俺は思い切って進言する。

これに曹操は、


 (兵力も持たない名ばかりの将軍が何をほざくか)


 と内心思っているようだが、不和の元になるため口には出さない。

この男も分かっている。例え影響力の少ない俺を罵ったとしても

そういった発言が全軍の統率に大きく影響することを。


 「風魯将軍。なぜ、そのように思う。

幸いにも敵は手薄だ。好機を逃しても良いのか」


 曹操は冷静に戻って反論してきた。

だが、俺は気がかりな武将がいるため、引き下がらない。


 「董卓方には李儒という智将がいます。

貴殿も董卓に仕えたことがあるから分かると思いますが、

策を考えぬことがないと言う李儒なら必ず急いだ時を狙うでしょう」


 「ううむ、確かにそうだ。あの男ならやりかねぬ」


 こうして諸侯軍は警戒しながらゆっくりと洛陽に迫った。

しかし、敵が現れることはない。


 (もしかして、洛陽の周囲をあまりにも手薄に見せることで

俺たちを警戒させて進軍を遅らせるのが目的・・・)


 俺がそう気づいた時にはすでに時遅し。

李儒は董卓と共に高笑いをしながら長安へ遷都してしまった。


 「李儒に一本取られたようだな」


 曹操は悔やむ。

諸侯軍が洛陽についたころには、その市街地から禁裏にいたるまでが焼かれており、

王都は灰塵と化していたのだ。


 「曹操殿、貴殿の方が正しかった。済まない」


 俺は曹操に頭を下げたが、


 「なあに、そんなの気にしてはいない」


 「まぁ、とかいう俺も賛同した一人だからな」


 と彼は笑い飛ばす。


 恐らくこのくらいのことなんぞ眼中にないのだろう。

彼の目標は覇業を成すこと。物凄い野心家なのだ。


 (目を瞑るどころか、そもそも気にもしない。

こういう男が魏を作るのだな)


 考えてみると後に覇業を成す曹操と劉備では全く性格が違う。

それは実際に同じ世界にいて感じるところだ。


 (そういえば諸侯軍の中に孫堅という者がいたな・・・あれ?)


 俺は今さらあることに気づく。


 (確か呉を建国したのは孫権だったよな。ん、孫堅・・・

字が違うけど同一人物なのかな?)


 歴史を知らない俺は孫権と孫堅の違いが分からなくなってしまったが、

間違えるなかれ。

 孫堅は孫権の父親でその間に孫権の兄、孫策がいる。


 孫呉の系図は、

 

 孫堅→(親子)→孫策→(兄弟)→孫権


 なのである。()内は関係。


 そして、俺がそんなことを考えていたまさにその横をなぜか上機嫌な孫堅が

通り過ぎていったのである。

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