第16話 長安遷都 Ⅱ
「朕はいち早く董卓をその座から降ろしたいと思うがどうだ?」
こう少帝は尋ねる。
ここ、禁裏では少帝が密かに漢の将軍、朱儁を呼び出して
密議が行われていた。
「まったく、その通りでございます」
朱儁もその案に賛成していたが、その場にいるもう一人の人物、
董承だけは微妙な顔をしている。
「董承、おぬしはどうだ?」
「・・・・・・」
董承は思い悩んだような顔をして答えない。
「董承、朕は聞いているが」
「はっ、こ、これは失礼を致しました。
私も熟考しましたが異論ありません」
董承はそう答えたが、本心は全く違う。
彼は董卓のことを大いに恐れていた。
この密議が露わになったらひとたまりもないと思い、
董卓への密告を密かに決意する。
ちなみに董承と董卓は同じ姓ではあるが別家系だ。
「なにぃ!帝がそのようなことを!?」
董承が董卓に密告すると、董卓は頭に血を昇らせて怒り狂い
腹心の李儒にこう命じる。
「少帝を廃し陳留王を立てるぞ!そして憎き朱儁は急ぎ投獄するのだ!」
これには腹心で董卓に唯一物言える存在の李儒も
何も言えず、ただ命令に従うのみであった。
「帝はこの董卓を廃せんとした。これまでどんなに尽くしてきたのかも
考慮せずにだ」
董卓は玉座の前に立ったまま言上を述べると、そのまま部下に命じて
少帝を捕らえて投獄し、毒殺してしまった。
さらにこの計画をともに謀ったとして朱儁将軍も捕らえられ、
獄中で血を吐いて絶命したという。
こうして陳留王を献帝と名乗らせて即位させ、
その献帝の補佐役を密告の功により董承に命じた。
董卓は一連の事件で中を固めたわけだが、
外からは十八路諸侯が迫り、今や頼みとする呂布の部隊も後退を続けている。
(中の憂いは除いたが、呂布が負けたとなると・・・)
董卓は戦況の知らせがくる度に嫌な顔をする。
なぜなら、吉報が一つもないからだ。
「董卓様」
「おお、どうした李儒。何か良い作戦でも思いついたか」
董卓は話しかけてきた李儒にすがるように聞く。
これで何も策がなければお笑いだが、この男は話しかけた以上
何かを持っているのである。
「はい、ここは故事にならって遷都するのはいかがでしょう」
「遷都とな?」
李儒は言う。
遷都はそれにより国の運を取り戻し、繁栄を取り戻せると。
「そんなの迷信ではないか」
董卓は落胆したが、
李儒は迷信の意義を強調する。
「迷信といえど、信という字が入っている通り信じる者がいるのも事実です。
故事には遷都したことにより国が再興された例があります。
私が推察いたしまするに昨今の状況の原因は負の運気にあると存じますので、
遷都により人々の運気は増し戦況も次第に良くなるでしょう」
これに董卓は少しの間考え込んだが、遂に。
「李儒がそういうなら遷都する」
と遷都を決意した。
だが、問題はどこに遷都するかである。
「遷都されるのは、長安がよろしいかと」
李儒が候補として挙げた長安は今の西安にあたり、
洛陽とは山をもって隔てられている。
「ふむ、構わぬが少し洛陽から遠いのでは?」
董卓の問いに李儒は一言。
「遠いから良いのです」
こう言って笑った。
果たして、李儒の狙いとは何なのか?
そして、諸侯軍は董卓が遷都する前に洛陽を襲えるのだろうか―
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