第15話 長安遷都 Ⅰ

 ここは洛陽への道を阻む関所。

石で組まれた頑丈な関門は押しも押されない。


 (十八路諸侯が来るというから、強敵と思っていたがたいした相手ではなかった)


 この男が巨体を反らして笑うと関門も崩れてしまうのではないかと思う。

その関門の上に立つ呂布は今や一片の迷いもない。


 こうなると無双状態である。


 (それにしても今日は敵の攻撃が静かだな・・・?)


 そんなことを思っている呂布のもとに使番が訪れ、


 「呂布将軍、諸侯側から風魯と申す使者が来ております」


 と伝えたので呂布はそのキリっとした眉を動かす。


 「これはこれは呂布殿・・・」


 俺は関門の内側に招かれ、呂布に会ったがその開口一番、


 「俺は内応には応じないぞ」


 と言われてしまう。

 

 だが、このくらいで引き下がるわけにもいかないので、

俺はあえて違う目的を話す。


 「いやいや、呂布殿が息災かどうか尋ねに来たのだ」


 「俺の戦いぶりを見ればわかるだろう」


 呂布は面倒くさそうに言う。

でも、”それは良かった”では終わらせられない。


 「貴殿は丁原という者に育てられたと聞くが」


 俺が急に話を変えて聞くまでもないことを尋ねる。

単純な呂布は答えないのも気持ち悪いので答えた。


 「ああ、俺は丁原殿を父上と思うておる」


 (しめた・・・!)


 俺はまず話を軌道に乗せると続けてこう尋ねる。


 「確かに育ての親と聞くからそうなのであろう。

しかし、その丁原殿は俺と謀って殺されてしまった」


 「貴殿の父上を殺したのは誰であったかな?」


 「う・・・!」


 俺の一言で彼は忘れかけていた感情を思い出す。

あの時、董卓に誘われて従った後に丁原を殺されて

董卓についたことを悔やんだ記憶・・・

 そして、よみがえる董卓への恨み・・・


 思わず俯いてしまった呂布に俺は畳みかける。


 「私は丁原殿と共に董卓を殺害しようと考えていたが、

丁原殿の無念な最期を聞くばかりとなってしまった」


 「貴殿に父上の仇を討つ義心はないのか?」


 これに呂布はしばらく俯いたままであったが、

悩んだ末に一言。


 「だが、今は董卓殿に可愛がられて養子となっている。

その愛情を受けておきながら刃向かうというのは・・・」


 呂布は迷いながらも董卓から離れない意思を見せた。

しかし、俺は彼の言う愛情を打ち砕くような必殺技を繰り出す。


 「養子といいながら、なぜ貴殿は董の姓を賜れないのか」


 「えっ」


 呂布が驚くのも無理はない。

董卓の養子に入ったのなら董の姓を与えられて然るべきだからだ。


 「そ、それは・・・」


 困惑する呂布に向かって俺はさらに一言。


 「董卓が貴殿のことを息子と思って愛情をかけているかどうか、

とくと考えていただきたい」


 俺は席を立つ。

あえてそれ以上は何も言わない。


 「ではな、呂布殿」


 「ああ・・・」


 俺はその帰り道で彼の迷い顔を思い出してニヤッと笑う。


 (よし、これで完璧だ・・・!)


 そして・・・


 

 「行けー!!関門を打ち破るのだっ!!」


 諸侯らが再び攻勢をかける。

すると呂布はこの前の一割の力も発揮できず、さらに周囲への注意が

おろそかになったため、そこをついて関所の裏に回った。


 「敵襲ーっ!!」


 山と山の間にあるこの関所。

その数少ない弱点は山林の中から回り込まれることだ。


 (仕方なし・・・)


 呂布は戦意を失いその場から撤退。

かくして、諸侯軍は難関を突破したのであった。

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