第14話 十八路諸侯 Ⅲ

 俺の居心地は正直言って良くない。


 一応、漢の将軍なので十八路諸侯の中に含まれているが、

蟄居から逃げ出した俺はほとんど手勢も連れず居候の状態である。


 公孫瓚の陣中にいてもどこか余所者という対応なので

嫌になって陣中から抜け出した。


 そして、しばらく周りを散策していたが、やはり居場所はないので

元いた公孫瓚の陣に戻ることに。


 「おお、これは風魯将軍。ご無事で何よりです」


 公孫瓚の陣営に戻った俺はそこで劉備の一行と出会う。

聞けば彼らも途中から公孫瓚と共に行動していたらしい。


 「心配してくれるのはあなた方くらいです。

他の者からは”この居候が”と言われてますから」


 俺は久々に人間に触れたみたいで安心した。

そして思わず笑みがこぼれる。


 いつもながら、彼の後ろには荒くれ者の張飛と長い髭を整えた関羽がいる。

関羽は何気ない顔をしているが、張飛は恐らく・・・


 (なぜ、こんなひ弱そうな将軍の相手をしているのだ?)


 と思っているに違いない。思いっきり顔に出ている。


 「将軍。聞けば間もなく出陣に踏み切るといいます。

董卓を倒すため、私たちも尽力いたします」


 「そうだな、頑張ろう」


 こんな話をして別れた。

劉備は漢王朝の再興を願っているだけあって、

漢の将軍である俺への対応は諸侯の中でもずば抜けて良い。


 そして、遂にその時を迎える・・・


 

 「者どもっ、進めやっ!前にいるこざかしい呂布など串刺しにしてしまえっ!」


 諸侯の一人、孫堅が味方を鼓舞すれば、


 「何をぬかすか。俺の赤兎馬でその口を踏んづけてやるわ!!」


 董卓軍の猛将、呂布が先頭に立ってそれに対抗する。


 正直言って董卓軍全体の士気は上がらなかったが、

諸侯の軍勢は呂布一人に苦しめられた。


 「このうぬぼれっ!この張飛がお相手だっ!!」


 特に呂布と張飛の一騎打ちは壮絶を極め、

両軍の兵士が戦うことも忘れて見入ったが、

決着はつかなかった。


 「うーむ、いかがしたものか・・・」


 戦は都、洛陽のはるか前で早くもつまづき、盟主の袁紹は

首を垂れてしまう。


 「袁紹殿、一つ提案が」


 軍議の片隅にいた俺は思い切って提案をする。


 「ん、風魯将軍か。何かいい作戦でもあるのか?」


 「ええ、まぁ」


 俺は笑顔を見せる。

中々の自信作だ。


 「申してみよ」


 「はい」


 袁紹の許しを得た俺はまず呂布と正面からぶつかることの非を唱えた上で、


 「洛陽にいたころ、何度か呂布と接したことがありますが

見た感じ迷いの多い男です。なので、呂布のもとに使者を送り

董卓の悪行や呂布の立ち位置の話を並べ立てた上で内応を促します」


 といった感じで調略策を訴えた。


 「ふむ、しかし呂布は董卓から赤兎馬を贈られたことにたいそう感激している。

そうたやすく動くとも・・・」


 袁紹は不安を口にしたが、俺はそれを遮るように続ける。


 「たとえ内応まで至らずとも呂布の心中に迷いが生じるはずです。

いくら武芸に秀でていても迷いがあれば十分に働けないでしょう」


 「なるほど、確かに武勇の勇を削れるやもしれぬ」


 俺の作戦は多くの者に支持されたが、一方でその使者を仕りたいという者は

中々現れない。

 それもそのはず、斬り殺される危険性も高いからだ。


 「では、私が自ら参りましょう」


 俺は腹を決めて手を挙げた。

俺が言い出した以上、挙げるしかあるまい。


 「うむ、では言い出した責任者、風魯将軍に一任する」


 袁紹の一声で決まった。

こうして俺は使者旗を片手に出発し呂布の陣営へと向かうことになったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る