第13話 十八路諸侯 Ⅱ

 曹操の起こした事件は早くもこの幽州に伝えられた。


 え、俺を逃がしたことかって?


 否、そんな小さなことではない。



 「ほう、曹操が董卓を暗殺しようとしたのか」


 公孫瓚も曹操の勇気に驚くばかりであった。


 董卓の重鎮となっていた曹操はぶくぶくに太った彼の体を斬るべく

以前から準備を重ねていたという。

 そして、俺を逃がした翌日の朝に決行したものの見破られてしまい、

命からがら東へ逃れたのだ。


 そして、俺を逃がした理由は計画が失敗したときに味方を増やすのが

目的ということだった。


 (なるほど、俺を逃がしたとき曹操は既に腹を決めていたということか)


 ようやく合点がいった俺だが、曹操のことだから地元である豫州よしゅうに逃れてから

じっとしていることはあるまい、とも思うのである。


 「公孫瓚殿」


 「どうなされた、風魯将軍」


 「時が来たかと」


 俺の言葉に公孫瓚も静かに、しかし大きく頷いた。


 「時経たずして曹操が兵を挙げるだろう。そうしたらこの公孫瓚も

その軍勢に加わり共に董卓の首を討つ!」


 公孫瓚はこう決意を表明する。

それに反論するものは誰一人としてその場にいない。


 そして、その後曹操が挙兵するとその許には江南の孫堅そんけん

徐州の陶謙とうけんや涼州の馬騰ばとう淮南わいなん袁術えんじゅつ(袁紹の弟)、袁紹らが集結。

 もちろん、公孫瓚と俺、風魯も一隊を組んで加わった。


 これら諸侯18人が反董卓を掲げて兵を起こしたのである。

この連合を反董卓連合と言い、またこのメンバーを人は十八路諸侯じゅうはちじしょこうと呼んだ。


 こうして董卓を討つ準備は整ったかに見えたが・・・


 「いくら意気盛んとはいえど、束ねる人物がおらねば烏合の衆となりかねない」


 諸侯の一人、馬騰が重要な発言をした。

確かに組織にはリーダーが必要である。

 これは今も昔も変わりない。


 「我は曹操殿を盟主に推すがいかが?」


 その馬騰が曹操を盟主にと推す。

だが、曹操はそれを辞退し、


 「いや、ここは是非、袁紹殿にやっていただきたい。

何といっても袁紹殿は血筋も良く、そして顔が広い」

 「人を束ねる者は人を良く知る者が適任というものだ」


 という風に袁紹に譲った。

しかし、その袁紹も譲る構えを見せる。


 「とんでもない、わしよりも陶謙殿のほうがいい。

なぜなら、陶謙殿は仁政で知られ、それこそ董卓に相反す。

よって董卓の対抗馬として相応しい」


 だが、その陶謙は袁紹に話を戻す。


 「本当に仁徳のあるものが治める地はよく栄えると聞く。

それこそ袁紹殿の治める河北は誰もが羨むほど栄えている。

だから、袁紹殿は実力と血筋と仁徳、全てにおいて盟主に相応しい」


 これにその場にいる多くの諸侯が頷いた。

ただし、俺を除いて。


 「風魯将軍はどうか、あまり快くない様子だが」


 孫堅に俺のことを聞かれてギクッとしたが、あまり波風立てても困るので、


 「いいえ、袁紹殿をおいてほかにありません」


 と答えておいた。


 袁紹は少し微妙な顔をしていたが、満場一致ということで

袁紹が反董卓連合の盟主となったのである。


 (正直言って相応しいのは血筋だけだな)


 俺は心の底でそう思っていた。

当然、助けを求めて追い出されたのを根に持っているのが一番だが、

あんなに董卓を恐れていた袁紹でいいものだろうか?


 まぁ、いずれにせよ董卓を退治するぞ、という思いは皆が同じなのである。

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