第8話 董卓の入京 Ⅱ

 王都、洛陽に平和が戻った。


 霊帝と何太后の子、少帝もその異母弟である陳留王も

洛陽に戻り腰を落ち着かせている。


 そして俺はというと・・・


 「遂にこの日を迎えられたな」


 「はい。私もこの日を待っておりました」


 そう、結婚したのである!


 お相手は洛陽の西、西涼一帯の太守、董卓とうたくの娘である。

政略結婚?とんでもない。俺の一目ぼれなのだ。


 しかし、転生してきたくせに歴史を知らない俺は

その無知を悔やむことになる・・・


 「風魯将軍、風魯将軍!!」


 ある日、俺のいる邸宅の外から俺を呼ぶ声がした。

門の前に出てみると、そこには袁紹が。


 「どうした、何かあったのか?」


 「何かも何もない。何進大将軍が暗殺された!」


 「・・・!」


 俺はその急報に驚きを隠せない。


 宦官たちが殺したのだろう、ということは想像ついたが

その宦官たちは最近おとなしくしていると聞いていた。


 「やったのは宦官たちか!?」


 これに袁紹は頷くと続いて仔細を述べる。


 「大将軍のところに”帝がお呼びだから参内してほしい”というお触れがきて

参内したところ、それを待ち構えていた宦官たちに弓矢で射殺されたそうだ」


 「なるほど、見事罠にかかってしまったのか・・・」


 俺が他人事のように言うと袁紹は険しい顔で俺に言う。


 「これは風魯将軍のお身にも関わることです。何進大将軍を殺した宦官が

次に狙う首は、恐らくわしと君だ」


 「・・・!」


 袁紹は言う。

宦官たちは何進を裏で動かした俺たちにも狙いをつけていると。


 (何かいい手立てはないものか)


 俺はその場に立ち止まって考えようとしたが、

袁紹は邸宅に戻るよう促す。


 「取り敢えずここは身をひそめることです。

宦官たちに敵意なしと見せるしかない」

 「その辛抱が近道だ」


 こう言って袁紹もまた自邸に戻っていく。

一先ず邸宅内に戻ったが、俺はそのままじっとしている気にはなれなかった。


 (そうだ、義父上・・・董卓殿に会えないだろうか・・・)


 俺がそう思ったまさにその時である。

小姓が足早に入ってきて告げた。


 「董卓様が将軍にぜひお会いしたいと門の前にいらしております」


 この時、俺は「天は俺を見放さなかった!」と喜び勇んで董卓を自邸に迎えた。

そして脂がのった体を引きずるように歩く董卓にすべてを打ち明ける。


 「ワハハハハ、なんのこれしき心配は無用!宦官たちなど

俺の指一本で黙らしてくれる」


 この時ほど義父上を頼もしく思うときはなかった。

そして夕刻まで世間話に花を咲かせて董卓は重い体を引きずるように

俺のもとから去っていく。


 だが、その董卓は俺に言った通り、指一本で宦官たちを

黙らせてしまうのである。



 ※人物紹介


 ・董卓:漢王朝の将軍の一人、残虐な性格で知られる、董太師。

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