第6話 優柔不断の大将軍 Ⅲ

 「兄上、まだそんな戯言を申しているのですか」


 何進の相談を聞いた彼女は持ち前のハッキリとした声で問いただす。


 何進の妹である何太后かたいごうは帝の后に相応しい美人で気品のある女性だ。

しかし、今となっては宦官たちの飼い猫と化している。


 「ま、まぁ・・・。でも宦官たちは国の役に立たないばかりか・・・」


 「いけません」


 兄、何進の切れ味ないぼやきをいつも一刀両断する妹。

何進は誇りに思っている妹がまさか宦官の言いなりになっているなど

予想だにせず、ただただ妹に謝る。


 「確かにそうだ。わしが間違っていた」


 と平身低頭述べて自らの邸宅に帰るのだが、

その帰り道には袁紹えんしょうという男が待ち構えている。


 「大将軍、まさか宦官討伐のことを諦めてはおられまいな?」


 「う・・・!」


 何進にそう言いよるこの袁紹という男は名門、袁一族の棟梁でこの漢王朝でも

大きな権力を持つ。

 国の重鎮である彼もまた、宦官たちの振る舞いに嫌気がさしている一人なのだ。


 そんな袁紹と妹の何太后に板挟みにされた何進はあっちにふらふら、

こっちにふらふらして無駄な時間を過ごしていた。


 「風魯将軍、袁紹殿が参っております」


 俺の邸宅に袁紹が訪ねてきたのはちょうどそのころである。


 「おお、風魯将軍。息災であるか」


 「袁紹殿こそ、お元気でなにより」


 俺に代わる前の風魯将軍はよほど顔が広いと見え、

漢王朝にいる人の端から端まで気軽に話せた。


 「わしも将軍も目指すところは同じ、宦官討伐だ」


 「ああ」


 「しかし、大将軍の動きはどうにも不安でならない。

だから一つ大将軍を動かすための策略を考えてきた」


 袁紹は俺に温めていた策を述べる。


 「まず、何進大将軍に謀反の疑いありとのうわさを流す。

そうすれば宦官たちは震えあがりそなたやわしを頼るであろう」


 「ふむふむ」


 「そうしたらそなたとわしは帝と宦官たちを守るという名目で洛陽の前に陣取る。

一方の大将軍も謀反の疑いをかけられたら腹を決めて攻めかかってくるはず」

 「そこで一戦交えると見せかけて洛陽に共々乱入し国の癌を洗い流す」


 「おお」


 俺は思わず声を上げたが、その一方で不安も抱く。


 (果たしてそのくらいで何進おじさんが兵を動かすのであろうか?)


 そう、むしろ慌てて無実を訴え降伏してしまうのではないか。

だが、そこを袁紹も織り込み済みで、


 「そこで何太后を活かす」


 袁紹はにやりと笑う。


 「いかにして活かすおつもりか」


 俺の問いに袁紹は一層顔の位置を低くして答える。


 「何太后が大将軍と謀反を画策していたから殺されたという噂を同時に流す。

さすれば、もはや退く道なしと思うと同時に妹想いの大将軍は

弔い合戦を挑むであろう」


 「なるほど、それは妙案」


 「殺されたという噂で活かすのだ、面白いだろう?」


 袁紹は再び笑う。

こうして両者は何進大将軍を動かす会を設立し宦官討伐へ動くのである。



 ※人物紹介


 ・何太后:霊帝の皇后で少帝の母、何進の妹である。

 ・袁紹:漢王朝の重鎮にして名門袁氏の頭、河北(冀州)に勢力を持つ。

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