第5話 優柔不断の大将軍 Ⅱ

 この時代に転生してから俺が考えてやまないのは、

俺に代わる前の風魯将軍はどんな人物であったのかということだ。


 俺は26歳で前世を去ったわけだが、転生して鏡を見るに

風魯という男は20代後半の風貌であったから、ちょうど俺と同じくらい。


 しかしその年齢は他の将軍と比べてかなり若いのだ。

一体風魯という男はどんなことをして成りあがったのだろうか―


 そのヒントは何進大将軍との会話の中にあった。


 

 「風魯将軍、この寒い日にわざわざいらっしゃって何用か?」


 何進は俺の顔を覗き込むように話す。

人払いは済んでいるようで二人の男以外、人の気配は感じられない。


 「いや、訪ねてきたのは他でもない。宦官たちをこのまま放っておいて良いのか

という相談だ」


 これに何進はその太めな眉毛をピクリと動かす。

そして、一言。


 「ほう。風魯将軍にしては真っすぐな返答だな」


 (風魯将軍にしては、って元の風魯将軍はどんだけ曲がっていたのか!?)


 そんなことを思いながら話を進める。


 「いやいや、やはりここは正直にならなければ。それだけ重要な問題だから」


 「ふむ、君が言う通りだ。宦官たちの振る舞いと言ったら酷い。酷すぎる」


 と、ここまではよかったのだが。


 「しかし、わしはその宦官たちの力でこの地位に登り詰めた。

だから、あまり逆らうのもどうかな、と思うのだよ」


 と難色を示されてしまった。

おまけに。


 「君もその力を借りたのだからわかるだろう」


 と何進は口にするではないか。


 (そ、そうか・・・!俺がこの若さで将軍になったのは

宦官の力であったのか!)


 ここでやっと謎が解けた気がした。

でも、逆に似た境遇の俺が本気で話せば何進おじさんの揺れ動く気持ちを

宦官討伐に固定できるのではないかと感じる。


 さぁ、ラストスパートだ。


 「大将軍っ!その揺れ動く気持ちこそが宦官たちの狙いなのです!」


 「な、なに・・・」


 急に大声を出す俺に彼は少し驚く。

だが、俺は驚いてなんぼ、と畳みかける。


 「宦官たちは正直なところ武器を持っていません。なので俺たちを

武器にしようとしているのです。今宦官たちに逆らわなければ宦官たちの甲冑として

骨をうずめることになります。それで良いのでしょうか!?」


 「ううむ、それは確かによくない」


 「では、宦官の奴らを討ち果たしてまっとうな政治を取り戻しましょう!!」


 ここに俺は何進と約束した。

戦の支度を進めて来月には宦官を全員討ち果たすと。


 もちろん、宦官たちは帝にしがみついて俺らを逆賊と叫ぶだろうが

所詮奴らは俎板の鯉である。

 鯉が俎板の上で何をのたうち回ろうと捌かれるのを待つばかりなのだ。


 (よし、この調子でいけば・・・!)


 俺は安心して決行の日を待ったが、何進という男はある意味

一筋縄ではいかないのである。

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