第2話 黄巾の乱 Ⅱ

 「ワハハハハ、かかったな公孫瓚!」


 全身黄色を纏った中年くらいの男が袋の鼠となった公孫瓚を嘲笑う。

その男、名を張宝ちょうほう。黄巾賊軍の将軍の一人であり、

黄巾の乱の首謀者である張角ちょうかくの弟にあたる人物。


 黄巾賊の兵たちは彼を地公ちこう将軍と呼ぶのである。


 「黄天当立・・・コウテンマサニタツベシ・・・ウハハハハ!」


 張宝の笑いが止まらないのも無理はない。

公孫瓚は彼の罠に見事なまでに、はまってしまったのだから。


 「くっ、油断していたのは見せかけであったか!」


 「だが、窮鼠猫を嚙むという言葉もある」

 「張宝には猫のように尻尾巻いて逃げてもらうぞ!」


 声を上げると同時に公孫瓚は自ら槍を取って戦った。

しかし、いくら武勇を誇る彼であっても多勢に無勢。

 もう一押しされたら逃げざるを得ない状況まで追い込まれた。


 ちょうどそのころ・・・


 「風魯将軍!風魯将軍!!」


 仮眠をとっていた俺を劉虞が叩き起こす。


 「・・・どうした、こんな夜中に」


 「公孫瓚が軍の決まりを破って敵陣に突入したところ、

罠にはまってしまい壊滅状態になっているとのこと!」


 「えっ」


 俺は驚くと同時に公孫瓚に裏切られたような気もした。

だが、そんなこと言っている場合ではない。


 「今すぐ助けに参るぞ」


 俺は寝ていた兵を夜番している者に起こさせて、

兵をまとめて戦場へ急行する。

 しかし、寝起きの軍勢は速度も遅いうえに槍を持つ手もおぼつかず、

ろくに戦えなかった。


 結局、負傷した公孫瓚を自軍の中に引き入れて陣地に逃げ帰ったのである。


 (黄巾の乱の張宝とやらは策略家のようだな)


 公孫瓚から経緯を聞いた俺はそう思ったが、

その罠にはまってしまった彼への風当たりは厳しいものだった。


 特に劉虞あたりはあれ以降、公孫瓚への文句ばかり口にしている。


 黄巾賊との対陣は続く。

次第に味方の士気も下がり、故郷に帰りたいとぼやく者も少なくなかった。


 そんな折である。


 「風魯将軍、是非面会したいという者が陣所の前に来ております」


 劉虞が俺にそう言ったが、彼の表情を見る限り会わなくていいのではないか

という思いが感じられるので、


 (ろくな人物ではあるまい)


 と思ったが名前を聞いてびっくりする。


 「その者、劉備玄徳りゅうびげんとくとそれを兄と仰ぐ関羽雲長かんううんちょう張飛益徳ちょうひえきとくと名乗っております」


 「・・・・・・!」


 俺だって聞いたことのある名前。

劉備玄徳と言えば蜀の国を作った三国志の中心人物ではないか。


 (この時代に来て初めて知っている人物の名を聞いた気がする)


 こう喜ぶ俺だが、当時の劉備はまだ僅かな手勢を率いて

各地を転戦し黄巾賊を退治して回る武将の一人に過ぎなかった。

 だが、俺にとっては現状どうであれあの劉備に会えるのだから

断る理由はない。


 「よし、ここへ通せ」


 俺は嫌な顔をする劉虞に構わず、ここへ案内させた。

果たして、どんなにかっこいい武将であろうかと俺はワクワクするのである。



※人物紹介


 ・公孫瓚:中華北部、幽州の群雄。

 ・劉虞:漢室の遠縁にあたり、公孫瓚に同じく幽州の領主。

 ・張宝:黄巾の乱の将軍、張角の弟、地公将軍と呼ばれる。

 ・張角:黄巾の乱の首謀者、天公将軍と呼ばれる。

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