三國志俺伝

武田伸玄

第1話 黄巾の乱 Ⅰ

 俺はいつの間にやら転生し古代中国、漢王朝末期の将軍になっていた。


 だが、時の流れは俺に驚く時間も与えてはくれない。

風雲急を告げる―


 「風魯将軍!前方に黄巾軍が見えます!」


 物見がしきりに状況を伝えてきたが、俺は何をしたら良いかわからない。


 俺の名前は風魯ふうろ・・・おっと、これは三国時代での名前でした。

俺の生前の名は片谷実、冴えない企業で働くサラリーマンだった。

 26歳の時、残業が200時間を超えたところまでは覚えているが、仕事を終えて終電で家に帰ってきたとたん意識が遠くなり、どうやら死んだらしい。いわゆるブラック企業戦士の過労死というやつだ。

 まぁ、上司からのパワハラ等も酷かった。今思えば無理矢理にでも会社を辞めて逃げだせばよかったと後悔する。


 死んだと自覚したときはこれで楽になると思ったが、そう甘くはない。

神様的な何かは俺を現代よりさらに厳しいこの時代に送り込んだ。


 転生する直前にあの世で天の声がして、


 ”おぬしを中国の三国時代転生させるから、あっちに着いたら風魯と名乗れ”


 と言われた。


 そして言われた通りに風魯と名乗ると、この名前は将軍の名前であったらしく

なんかわからないけど将軍の座に就いたのである。


 唯一安心したのは古代中国の言葉を話せるようにしてくれたこと、

それだけである。


 「将軍、ご下知を!」


 配下の大声がしたので話を戻そう。

今俺は黄巾の乱?とかいう敵と対峙している。


 俺は歴史が大の苦手であるから、黄巾の乱といわれてもピンとこない。

だが、乱というくらいだから国に対する反乱なのであろうということは

理解できた。


 「敵は強いか?」


 情報を持たない俺は右隣にいる若い男に聞いてみる。

その男、名を公孫瓚こうそんさんという。この名前、どこかで聞いたような気もする。


 「恐れながら申し上げます。敵は数こそ多かれど、統率がなっておりません。

故に正攻法では損害を被りましょうが、側面より奇襲いたせば

崩すのは容易いかと存じます」


 彼の意見は的確だった。

しかし、それに対し左隣にいる男・・・劉虞りゅうぐが不安を述べる。


 「そううまくいけば越したことはありませんが、我が官軍は疲労甚だしく

一方の敵は血気盛んです。ここは軍を退かせて休息をとるべきかと」


 全く、いきなりの板挟みである。

ただ、聞いた話によれば中華全体で黄巾の乱には苦しめられているらしい。

 敵が強いのもそうだが、一番は官軍が気持ちで負けているように思えてならない。


 だから、俺は腹を決めて指示を出す。


 「劉虞、そなたの考えも一理あるが、そもそも気持ちで負けている。

俺たちは国の軍であり官軍だ。略奪ばかり繰り返す賊に怯えてどうする」

 「決めたぞ、指示を出す。公孫瓚の策を採用し、兵の一部を側面に回らせる」


 「だれかその役目をやってくれる者はおるか!?」


 俺は周りを見渡そうとしたが、彼はその暇も与えずに声を上げた。


 「風魯将軍っ!この公孫瓚が行って参ります」


 「おお、公孫瓚が行ってくれるか」


 「はい。この策を提案した以上、行かぬという選択肢はないでしょう」


 公孫瓚は笑顔を見せる。

その笑顔はとても頼もしく思えた。


 さぁ、そしてその日の夜。

公孫瓚率いる部隊が夜陰に紛れて陣地を発った。

 もちろん、戦場横の鬱蒼とした森林に身をひそめるために。


 しかし、公孫瓚は篝火を焚く敵陣の様子を見て

あまりに油断して眠りについているので夜討ちをかけたら勝てるという

誘惑に取りつかれた。


 遂に誘惑に負けた公孫瓚とその部下は日中決めたことを破って敵陣へ殺到する。


 「わぁーっ!!」


 鬨の声をあげて攻めかかるとその途端、公孫瓚は言葉を失うのである。


 


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