第14話

 声を掛けても涼は答えない。涼を連れて帰ろうと手を触れた途端、目を見開き悲鳴を上げた。

「あ、あ、きゃあぁぁぁ……!! 助けて! りゅう、た……すけ……」

 気絶した涼に僕の上着を着せ、抱き上げて出ていく。


 家に帰り涼を風呂へ入れる。何処にも怪我もなくホッとして洗い出す。シャワーのお湯が真っ赤になって流れていく。

 綺麗に洗ってからベッドに寝かせて僕は横に座り涼の手を両手で包む様に握る。


 そして、神に祈った……

 どうか、涼がこっちの世界に戻る様にと。



 ――次の日の朝。


 頭を撫でられて目が覚めた僕は、涼が気が付いたと思い飛び起きた!

 でも、そこに居たのは涼であっても涼ではなかった……


「お兄ちゃんは誰? ここは私の部屋でしょ。 竜はどこにいるの?」

 涼の意識は僕らが初めて出会った、九歳に戻っていた。



「お姉さんは記憶が退行しています。余程、強いショックを受けた場合、こう成る事はよく有るのですよ」

 精神科の医者はそう言った。では、どうすれば治るかと聞けば。


「無理に思い出させては、いけません。本人は忘れたくて記憶を封印してるのですから」

 時が解決すると。でも、それが何時になるかは分からないと。


 あの時、倉庫で死んでいた奴らは、小夜に頼まれて涼を襲ったらしい。だけど、誰から先に涼を犯すかで仲間割れをして、お互いに殺し合ったと逃げた仲間が警察に自首してきたそうだ。

 人間だったら、有り得ない程の力で殺し合ったと聞いた。

 僕には分かる。涼は普通の人間ではない。でも、かけがえのない大切な人。


 僕が一緒に居るよ。

 ずっと涼のそばに。

 たとえ、どんな姿でも。

 涼は涼だから。


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