第13話

「小夜、ごめん……」

 別れを切り出した僕に、小夜は泣き喚いて胸を叩いた。

「竜、酷いよ……。好きな人が出来たって誰なの? ねぇ、誰なの?」

 今になって自分のした事が、いかに残酷な事だったか分かった。

 でも、もう気持ちは涼にしか向けない。いたたまれなくなってその場から去った。

 その事があんな事態を引き起こす事になろうとは、僕は想像すら出来なかったんだ。


 ◇◇◇


 授業が終わり涼と家に帰る。それが、こんなに嬉しいとは今まで思わなかった。

 手を繋ぎたいのを我慢するのが辛いとは。昔はよく手を繋いでこの道を帰った。

 隣で涼が笑う。胸が締め付けられる。守りたい、この笑顔を。


「ちゃんと稽古頑張ってね」

 涼にそう言われたら頑張るしかない。苦笑して涼の手を握る。

「ちゃんと頑張るから、ご褒美頂戴」

 振りほどこうとした手から、力が抜けて握り返してきた。


 家に帰ると僕は稽古場に、涼はキッチンで何やら作り出した。

 多分、誕生日のケーキだ。別に僕は欲しくはない。涼さえいれば。


 稽古が終わってキッチンに行ったらテーブルの上には豪華な料理とケーキが置いてあった。

 涼の姿を探すが家には居ないみたいだ。


 不意に携帯が鳴り、見ると小夜からのメールだった。文面を見て一気に血の気が下がる。


 そこに書かれていたのは……


『あなたの大切な人が大変よ、竜。私を裏切るあなたが悪いのよ! ざまあみろ!』

 僕は涼を捜して、捜して。やっと使われて居ない倉庫に涼を見付けた。


 でも遅かったんだ。


 そこは、まるで……


 地獄絵図のようだった。



 周りには血が飛び散り、涼は裸で頭から真っ赤に染まっている。死体は三人で。何れも、普通だったら有り得ない方向に捩れていた。



「涼、僕だよ! 竜だ!」



 涼の瞳には、なにも映ってはいなかった。

 ――僕さえも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る