第9話

 あれから竜は私と一緒に居る事がなくなった。いつだって離れたことなんか無かったのに。


「涼、 涼、 大変よ!」

 早織が慌てた様子で走って来た。

 私はそんな彼女を見たことがなかったので、何が起きたかと心配になった。


「早織、何があったの?」

 目一杯走って来たのだろう。

 しばらく何も喋れなくて苦しそうに息をしてから一気に言った。


「竜くんに彼女が出来た。今、聞いちゃった。告白OKしてたよ!」

「涼? どうしたの?……」

 泣いちゃ駄目、私が選んだ選択でしょ? 良かったのよ竜にとっても私にとっても。

 でも、何でこんなに胸が苦しいの?


「良かった。竜ったら、ちっとも女の子に興味が無さそうだったから、少し心配してたのよ」

 明るく言うはずだったのに。実際口にした言葉は震えていて。

 見ると早織が涙を溜めていて私に言った。


「涼、わたし達、親友だよね? 良いんだよ、わたしには強がんなくても。竜くんの事、好きなんでしょ?」

 我慢出来ずに私は涙を溢した。早織と一緒に抱き合って泣いた

 ひとしきり泣いたあと、早織が学校を早退するかと聞いてきた。


「大丈夫。いつまでもメソメソして居られないし早く慣れなくちゃ」

 竜がそばに居ない事に。

 もう二度と、あの優しい瞳で私を見てはくれないのだ。


 教室へ早織と二人で戻ると、竜の事で話しは盛り上がって居た。

「なあ、誰だよ。竜の付き合う子って」

 そう言って片桐君が竜に聞いている。

「別に、誰だって良いだろ? オマエが付き合う訳じゃ無いんだから」


 冷たい竜の声に私は思わず振り返って見ると視線が合った。

 竜は、何も感情が無いその瞳で私から目を反らした。

 授業が始まらなかったら私は、とっくに帰っていただろう。

 竜の誕生日は、あと2週間後に迫っていた。


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