第6話

 私は何故か涙が止まらず追われている訳でもないのに走っていた。

 前が良く見えないまま走っていたら、何かにドンとぶつかった。


「あっ、ごめんなさい」

「大丈夫だよ。でも危ないから気をつけて、どうしたの? どこか怪我でもした?」

 ぶつかったのは3年生で生徒会長の悠木先輩だった。優しくて頼りになる、お兄さんの様な人。


「いえ、何でもないんです。すみませんでした」

 ぺこりと、頭を下げてそのまま教室へ行こうとしたら、先輩が私を呼んだ。

「君、美月さんだよね? とても大丈夫には見えないけど。俺でよければ話してくれないか?」

 なにか、先輩は私がイジメにでもあってると思ったらしい。


「本当に何でもないんです。先輩、ありがとう」

 私がにっこり笑ったら、先輩も安心したように笑って、じゃあねって言って教室へ入って行った。

 大変! 早く給食食べなくっちゃ時間がない。

 慌てて教室へと戻ろうとしたら、急に腕を掴み引かれた。

 振り返ると竜がそこにいた。


 竜は何も言わないで私を見てた。でも私に向けられたその顔は怒りに震えている。 

「竜、何で怒ってるの? 何かあった?」

 そう言った途端、涙が溢れて来るのを私は止められなかった。

 私どうしちゃったんだろ。こんな泣き虫じゃなかったのに今日は泣いてばかり。

 その時ふわっと優しく抱いて、竜がゴメンって言ってくれた。

 私は子供の頃の様に声を張り上げ泣いた。竜にしがみついて。そして、気が付いていたけど知らない振りしていた自分の感情に。


『私は、竜が好き……』

 半分、血が繋がった私の弟。

 ずっと一緒だった。でも、この感情は血の繋がりとは違う気持ち。


「涼、そんなに泣かないで、こっち向いて……」

 竜がかすれた声で心配そうに言ったから私は顔を上げた。

 竜の瞳の中に私が映る。

 涙を流した私の顔が。

 竜は私の顔を両手で挟み、上に向かせると優しくキスをした。

 このまま……ずっと、このままでいられたら。





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