第3話

 美月の家では朝食は皆で一緒には取らない。だから朝は、僕と涼の二人だけで食事をする。

「涼、おはよう」

 ぼくは、いつも涼より起きるのが遅い。

「おはよう竜。早く食べないと遅刻しちゃうよ。何度起こしても起きないんだもの」


 少し怒った涼の顔が僕は一番好きだ。

 僕達は十四歳になっていた。

 毎朝僕を起こすのは涼の仕事。子供の頃からの習慣だ。

 目が覚めて最初に涼の綺麗な顔を見ないと、僕は機嫌が悪い。

 今日だって起きていたけど、涼の顔を見ていたいから寝たふりしていた。


「ねぇ竜、悪いけど今日は1人で帰ってくれないかな?」


「何で? 何か用事があるの?」

 僕が聞いたら、涼は少し顔を赤らめ「うん、ちょっとね……」と言葉を濁した。

 何で顔を赤くするんだ? まさか――!

「涼、誰か好きな人でも出来た?」

 さりげなく無関心を装い聞いてみると、涼の頬は見る見るうちに真っ赤になっていった。


 涼は何も言わず、俯いていた。

 でも長い髪の隙間から覗く耳朶まで真っ赤になった事が、何より雄弁に物語っているように僕には思えた。

(涼、なぜ? 僕が誰よりも涼を愛してるのに)

「分かった涼。余り遅くならないでね」

 嫌なのに、涼に嫌われたくないから無理して笑って言う。

 涼は、ホッとした顔をして食事の続きを始める。

 僕達はいつも一緒だった。学校へ行く時も帰る時も。

 部活はふたりとも所属していない。家の事情で毎日稽古があるから。

 なのに初めてだ、涼がひとりで帰る?

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