第2話
僕が同い年の姉である涼と始めて会ったのは、そろそろ夏休みも終る頃、まだまだ残暑厳しい八月の終わりの事だった。
殊更暑い日だというのに、長袖のブラウスとズボンを着た涼を見て。
(こんな、汚い子が僕の姉さんだなんて……)
そう思った。それほど、その子は何日もお風呂に入って無いように見えた。
涼は母親に付き添われ来ていたが、家の玄関先で父に引き渡すと、何も言わずに帰って行った。
涼は父に駆け寄って行ったが、父は何も声を掛けずに家に入ってしまった。
後に残された涼は、きつく唇を噛み締めていた。
「お嬢様。お家の中に入りましょう」
家政婦が同情の眼差しで、涼に声を掛け連れて行った。
あの時は、涼の事を血の繋がった姉だとは思いたくなかった。
夕食の時間になり、家族が全員揃った時、家政婦が涼を連れて来た。
涼は、お風呂に入れられたらしく、さっぱりとしていたが半袖のワンピースから出た手足には、無数の痣があった。
「あの女は、自分の娘に何をして来たんだろうね!」
祖母は、吐き捨てるようにそう言うと父を見た。
父は、感心がなさそうに涼の方をボンヤリと見て言った。
「仕方ないじゃないか。祥子が涼を引き取れと煩さく言うから……」
そう実の父から言われた時。
その時の涼の顔を、今でも忘れる事が出来ない。
たった九歳の子供なのに涙を堪え、父を真っ直ぐ見つめ返した瞳。
今思えば、僕はその時から半分だけ血の繋がった姉に恋をしたのだ。
どんな体罰や、言葉の暴力に晒されようとも、毅然と前を向く美しい顔と心に。
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