第4話 バージョンアップ レディ
「そういえば、まだオーダーしてなかった......」
失恋話につい夢中になり、レストランに入ってからしばらく経過していたが、マスターの姿を目で追っているうちに、注文を済ませて無かった事に気付いた千鶴子。
「それなら、大丈夫!もう、私がお勧めを注文しておいたから!」
容子はサラッと流したが、いつの間に注文を済ませたのだろうと、ふと疑問に感じた千鶴子。
千鶴子の嗜好くらいは分かっているはずだが、今まで、容子が勝手に注文する事など無かった。
少し違和感を抱いているうちに、ほどよい酸味とチーズの香りが千鶴子の鼻に届いて来た。
「お待たせしました!千鶴子さんの為に、美しくなる春野菜たっぷりの特製和風ミネストローネ『バージョンアップ レディ』です!」
大きなスープ皿には、よく見られるような自家製パンチェッタや、トマト、ニンジン、ジャガイモ、セロリ、ニンニク、オリーブ、ブロッコリー、カリフラワーなどの他に、タケノコやフキや菜の花など旬の和の春野菜が所狭しと見え隠れし、デトックス効果もリフレッシュ効果を期待る特製ミネストローネがゆらゆらと湯気を上げ、木製のテーブルが一気に華やいだ。
何より、ミネストローネを覆うように、たっぷりととろけたモッツァレラチーズが、食欲をそそらずにいられない。
「わっ、美味しそう!」
今すぐにでも、添えられているライ麦パンに、そのとろけたチーズを絡ませたり、スープを染み込ませて食べたい衝動に駆られる千鶴子。
が、それを実行するには、舌を犠牲にする覚悟が必要で、一呼吸置くしかないのだが。
「このミネストローネで美しさに磨きをかけて、新しい出逢いにかけましょう!」
給仕し慣れた様子でスマートに語ったマスターに、ますますときめきを感じずにいられない千鶴子だったが、まずは食欲を満たす事が先決だった。
「容子、ありがとう!この料理を選んでくれて大正解!もっと言うと、ここに連れて来てくれた事こそ大正解!頂きま~す!」
千鶴子が失恋の痛手を忘れようと、ガツガツ食べている様子に満足そうな容子。
「良かった~!失恋した時は、やっぱり、美味しい物をたっぷりと食べて忘れてしまうに限るよね!」
2人はそのミネストローネのデトックス効果とリフレッシュ効果を信じながら、モッツァレラチーズが硬くならないうちに、無我夢中で食べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます