41 頑張れ香苗ちゃんですが?
そして時はお昼休み。
保健室でいつも通りコーヒーを飲んでいる鴻 早苗のもとに佐一から連絡が届いた。
『すいません、早速で申し訳ないんですけど。昨日お願いしたこと頼めますか? 今日早起きさせて学校に連れ出したものですから、不機嫌になって午後の授業をサボらないか不安で』
ほくほくと微笑みながら素早く『了解(*`・ω・)ゞ』っと返事を返した。
今まさに頼られている。君のきたえに私は全力で答えるぞ。
そう覚悟を胸に椅子から立ち上がり、深ノ宮さんの居るであろうベッドのもとに歩みを進めるのだがカーテンに手を掛ける前に固まる。
どう接するのが正解なのだろうか? 対人恐怖症みたいだったし、気軽に『こんにちは深ノ宮さん』と明るく接してみるのもなんだかな。てゆうかそもそも話しかけていいのだろうか? 一ヶ月ほど一緒の教室にいるのに一度もまともに会話したことないからな。
う~んと悩み続けそんな思考が交差し固まる鴻さんのスマホが再び鳴る。
『ありがとうございます。ついでに霰さんマニュアルファイルを送っておきますので、それを見て対応してください。難しく感じたなら無理をせず放置してくれて大丈夫です。その時は自分が何とかします』
ま、マニュアル? とりあえず目を通してみてから対話を試みても遅くはない。
スマホに送られてきたzipファイル『深ノ宮 霰さんの扱い方』を展開してみるとい全五百七十一ページのメモ帳が展開され、さっと見る限り、どれも深ノ宮霰さんと言う人物に対しての接し方について書かれている。
ファイル容量2.3㎇って、でっかいなぁ~。それだけ彼女は繊細って事なのか。対応に気負つけないとね。
その容量と彼の姉に対する熱意に少し引いた顔を表に出した鴻だったが。制作日を見て驚愕する。
制作日は昨日、休みだったとはいえ彼にはやるべきことが沢山あっただろうに、私があたふたすることを見越してるな佐一君。
彼は本当にお姉さんの事をしっかり考えているんだなと思うと同時に、いつ寝ているんだと不安になる。
少しでも彼の手助けになればと言う思いでメモ帳の最初に戻り目次の欄を見る。
『その一まずは機嫌を確認してみよう! 布団やベッドの中に居ることが多い霰さん。まずはその時の様子を遠くから観察してみよう。観察した状況に従って下の欄①~③の行動に移してください』
とりあえず確認が大事っと。
カーテンの隙間から、深ノ宮さんの状況を確認する。
彼女は布団を全身にかぶり、ピコピコ音はするが姿が見えない。
えっとこの場合は……。
①掛け布団から半分体出してお菓子をほう張りながらゲームをしている状況。
・機嫌がよく、リラックスして誰が話しかけてきてもいいと気が抜けている状態。急に話しかけずにカーテンを開ける前に一声かけてから優しい表情でお願いしてみましょう。不安なら二十四ページに行って『霰さんと自然な会話をしよう』に移ってください。(*学校ではほぼ絶対に見せないので飛ばしてもらっても構いません)
②掛け布団を三分の二程被りながらゲームをしている状態。
・機嫌はいいけれど緊張している状態です。話しかける際は遠くから声を掛けましょう。大抵の簡単なお願いなら聞いてくれます。心の開き具合、好感度次第ですが。鴻さんならきっと大丈夫です。不安なら①と同じく二十四ページに移ってください。
③布団を全身にかぶってゲームをしている場合。
・不機嫌です。この時には絶対に話しかけずに速やかに第五十三ページに飛んで対策を練ってください。
三番、佐一君が言っていた通り不機嫌な状態なのか。話しかけなくてよかったぁ。てかすごく絵と画像を使って分かりやすく作ってくれてる。凝ってんなぁ。
関心しながらも、とりあえず話しかけず、指示に従って五十三ページに進む。
『霰さんの不機嫌度を知ろう。 霰さんの不機嫌度には十%(すぐ直る)~百%(治りにくい)まで分けられます。これらを確認するためにはプレイしているゲームを確認し下の欄①~③の行動に移してください』
①格ゲーをプレイしている場合
・一戦一戦が短いゲームなので、次の行動を意識している状態です不機嫌度は十%~三十%程度なので、この場合は少し遊ばせてあげましょう。そうすれば午後の授業に勝手に行ってくれます。そっとしておきましょう。
②アクションゲームをプレイしている場合
・不危険度三十一%~七十%、授業に行くか五分五分な状態なのでまずは様子を見ましょう。様子を見ている間に百七十七ページに進み。『霰さんをやる気にさせる言動』に目を通しましょう。様子を見ているうちに次の二パターンの行動に霰さんは移ります。一:段々布団から顔を出す場合。この場合は少しずつではありますが機嫌が戻りつつあります。『霰さんをやる気にさせる言動』の十二番の言葉を優しくかけてあげましょう。そうすれば授業に行ってくれます。二:布団の中で横にならず座っている場合。ゲームに集中している証拠です。授業に出たくないという意思があらわになっています。ですが諦めてはいけません、この場合は二百二十ページ『霰さんの集中を奪う言動』に進み対応しましょう。
③RPGをプレイしてい居る場合
・霰さんがRPGをプレイするのはコマンド式の長編なので意地でも動かない意思を見せています。袋入りのお菓子を食べていると赤信号、不機嫌なうえに怒っています。不機嫌度七十一%~百%です。この場合午後の授業に絶対に行きません。その時の対象法は他人ではこなせません。速やかに自分に連絡を行ってください。
……布団被ってて何のゲームしているのかわっかんね~。画面が見えたところで自分自身ゲームに詳しくないからどうしたものか。
そうムムムと考えてると目線の端、メモ帳の一番下に小さく米印で補足が書いてあることに気づく。
※画面が見えなくてゲームジャンルが到底できない場合のために霰さんがプレイしているであろうゲームSEファイルも添付してますので、そちらで聞き比べて頑張ってみてください。
ファイルが大きい理由はこれか。これなら霰さんのプレイしているゲームの特定は容易く出来そうだ。イヤホンはしてなさそうだし、とりあえず耳を澄まして聞いてみよう。
カーテンに耳を当て、分かりやすそうなSEが鳴るまで待ってみる。すると『テレレレッテッテッテー♪』と言う音が聞こえた。
うん、世代ドンピシャだからSEファイル開かなくてもよかった。けどなんか悲しいような。
完全にド〇クエのレベルアップ音だ。ってことはRPGをプレイしているから3番か……って私何もできないじゃん‼
電話推奨されるぐらい不機嫌な状況、ここはマニュアル通りに連絡するのが妥当だと私自身理解している。
鴻はスマホの画面を開いたものの、連絡アプリを起動するのをためらっていた。
深ノ宮さんの為には呼んだ方がいいのだが、はたして電話してきてもらうという行為は彼の為になっているのだろうか?
家庭の自称を私にお願いしてくるぐらいだから、現状佐一君の脳や体は精一杯動いていると考えた方がいい。ここで電話すると彼に負担が再び圧し掛かる。
私は深ノ宮さんの事をよく知らない、個人の感情で動くのはリスキーすぎる。けどこのままじゃいけないと思う彼女もそうだけど彼の為にも。
だからこそ今私にできることをやろうとスマホを白衣のポケットにしまった。
徹夜して作ったであろうマニュアル無視してごめんね佐一君。けど君のお姉さんを傷つけたりしないから。
ゆっくりとカーテンを開けて、鴻は優しく語り始めた。
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