39 青春部(仮)がピンチですが?

『了解(*`・ω・)ゞ』


 保険の先生からのラインを確認し、食堂の定位置に付く佐一。


 こういう返事が来たってことは、予想は的中しているらしい。


 厄介なことを押し付けてしまったと後悔しても遅い。とりあえず目の前の問題から崩していく。


「お待たせ~って弟君はいつもここでご飯食べてるの?」


 サンドイッチを持った佐久田は辺りを見渡しながら佐一の前の席に座る。


「何もないときは大体ここにいます」


「一人で?」


「はい」


「寂しくない? うちの部活に入れば一緒にお昼を食べる仲間がついてくる。しかも美女三人。どうかね」


「ナチュラルに話を戻しますね」


「一度断られてるのも承知で本当に頼む‼」


 佐久田さんは頭を下げながら手を合わせ、必死に佐一にお願いする。


「とりあえず部員が必要な理由と自分を勧誘する理由を説明してください」


「今朝部室の掃除をしてたら生徒会長が来て、部室の使用許可を出していないのに教室を使っていたことについて怒られたからその時に部活動の申請を行ってみたんだけど、部員が五人以上必要で……それと……」


「青春部(仮)の活動内容について言及され、何も言えず部室から追い出されたってとこですか」


「……そうです。ハイ」


「とりあえずご飯食べながら解決策を考えましょう。お腹が減ってはなんとやらですよ」


 お弁当の包みを開け、食べ始める佐一の姿を見て佐久田さんもサンドイッチの封を開け、落ち込み考え込む様子で小さくかじるように食べ始める。


 青春部(仮)の活動内容については自分が入部することで言いくるめられる。


 この学校は競技制の問わない部活には高等部中等部関係なく入部することが可能。クラスの違いや年齢の離れた生徒同士交流、コミュニケーションがこの学校の方針でもあるため中等部の自分が入部することで青春部(仮)の活動には文句をつけられないだろう。


 問題は残り一人の部員。


 まず高等部の生徒じゃ駄目だ。自分は家庭の事情で毎日青春部(仮)に顔を出すことが出来ない幽霊部員になる。そのためもう一人、放課後暇で毎日顔を出せる中等部の生徒が入部してほしい。


 だが自分に同い年の友達などいない。部活に入っていない中等部一、二年の生徒を洗い出して今の部員のメンツにはまりそうな生徒を説得するしかないか。


「ごちそうさまでした」


 両手を合わせた後お弁当の包みを戻す。


「はやっ、こっちも急いで食べるからちょっと待って」


「食べながらでもいいので考えた結果を話して良いですか?」


「……ふ、ふい」


 サンドイッチを頬張る佐久田さんに持ってきていた水筒からお茶を差し出し、自分の考えを全て話した。


 その話を聞きながらサンドイッチをゆっくりとお茶で流し込み。両手を合わせるころには佐一の話が終わっていた。


「そこまで考えて弟君さそってなかった。もしかして考えていなくても脳がそのことに気付き体が勝手に動いたってことか……天才か私」


 話を聞いた佐久田さんは顎に手を当て、通常運転の破天荒な言動を見せた。


「え、てっきり生徒会長さんを言いくるめるために中等部の自分を誘ったのかと」


「んにゃ、十香っちが弟君に入部してほしそうだったから誘った」


 単純だなぁ。


 ……単純だが佐久田さんもかなり考えている。椿さんや十香さんの事を考えればまず身近な人間に声をかけるのが正しい。


 そのことを踏まえ佐久田さんに問う。


「佐久田さん、中等部に知り合いっていますか?」


「それが弟君以外いないんだよねー。同い年の友達なら居るんだけど、皆別の部活に入ってるかな」


「自分は友達いませんね」


「「……」」


 二人の数秒の沈黙後。


「青春部(仮)の未来積んでないかぁ‼」


 佐久田さんは両手を上げて発狂しだした。


「青春部(仮)の活動だけ続けて、部室をあきらめるのでは駄目なんですかね?」


「あきらめるなんて嫌だぁ。学校と言う堅苦しい場で唯一自由を許された場所。漫画とかゲームとかで見るあのゆる~い雰囲気の空間が今まさに作り上げている最中、この空間を失いたくないんだい‼」


「……自由ではないと思いますが、情熱は伝わりました」


 佐久田さんは着席し、腕を組んで再び考え始める。


 どうする、人数が四人でも説得すれば行けるか? いや無理、学校側が一度特例を出してしまえば他の部に影響を及ぼしてしまう。


 椿さんの為にも部室は無くなってほしくないけど、この件に関してすぐに結論を出すことはできない。やっぱり地道に青春部(仮)に交わりそうな部活に入ってない生徒を探すしかない。


 そんなことを考えているとお昼を終わらせるチャイムが鳴る。


「やっば、もうそんなに時間たったの、早く教室戻んなきゃ」


「とにかく自分は中等部の生徒を当たってみますので佐久田さんは高等部の生徒お願いします」


「中等部の生徒じゃなくていいの?」


「まずは人数。それが部室を取り戻すための条件。活動内容については自分の時間を作って毎日顔だけでも出せるよう何とか調整してみます」


「ごめんね弟君」


「気にしないでください」


 そう言って佐久田さんと分かれ、青春部(仮)の事を考えながら急いで教室に戻る佐一だが、心の中で霰さんと保険の先生……香苗さんの事をものすごく心配していた。

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