38 迷ってますが?
授業が終わって昼休み。
教室でお弁当の包みを出し、行動をどうするか考えこむ佐一。
昨日件は今朝の乃虎の行動でほぼ解決したように見えるが、自分に対して八つ当たりの件について鈴さんが思い詰めていないか一度顔を見ておたい。
だがこっちの事情で無理やり早起きさせ、自分の行動に付きあわっせてしまった霰さんの様子も見ておきたい。ふてくされて午前の授業休んでなきゃいいけど。
椿さんは青春部(仮)があるし、楓さんは今のところ『あの子』のおかげで健康そうだし大丈夫だろう。
だったら今行くべき場所は霰さんがいるであろう保健室だろう。鈴さん、霰さんともに状況を把握できる連絡先があるのだが、保険の先生……鴻さんには迷惑かけたくない。
鈴さんは家に帰れば嫌でも顔を合わせることになるから様子はその時見られる。霰さんの状況は現在進行形で悪化していると思うし。
そうと決まれば早く行動しなければ。休み時間と言っても数十分しかないからな。
考えがまとまったところで包を持って立ち上がり、中央校舎の保健室へ歩みを進めていると後ろから無言でギュッと抱き着かれた。
椿さんがいつものように抱き着きに来たのかと一瞬思ったのだが、いつもと違う抱きしめられる感覚で少し戸惑っていた。
この人は椿さんじゃない? じゃあ一体誰だ?
思い当たる人物を考えた結果、こんな事をする知り合いは椿さんを外して二人しか思い当たらない事に気が付き佐一は口を開く。
「佐久田さん、自分に何か用事ですか?」
「おお、よくわかったな弟君。やっぱ胸か?」
「ちが……いますとは言い切れませんね」
「正直だ。そんな弟君が私は好きだぞ」
そう言いながら背中から離れ、うんうんとうなずく佐久田さん。
自分に抱き着く椿さんの行為を知っていて面白半分で試す人間なんて、楓さんか佐久田さんしか思いつかなかったからな。
楓さんとは最近口を聞いていない……というか話しかけられても自分からスルーしてるこの状態、茶化して状況をさらに悪化させるような行動をとるとは思えない。
よって消去法で佐久田さんになるわけだが、何で佐久田さんが自分に会いに? もしかして……。
「もしかして椿さんが何かしました?」
不安になった自分の口から考えより先に言葉が出ていた。
「え、いやぁ別に弟くんが心配する用な事は何もないよ」
自分の不安を吹き飛ばすようながっはっはという笑い声を聞きホッと胸をなでおろす。
「じゃあ何故自分に会いに? ただ部活の遊びに誘う為ですか?」
「んーあー惜しい、かな」
なんか歯切れが悪い、遊びに誘うのが惜しいか、確かに遊びに誘うだけなら休み時間や放課後でもいい。お昼休みが始まったばっかりでお昼も食べてないはず。それでも来る急ぎの事情、部活関係。
「もしかして自分を部活に勧誘しに来ましたか?」
「大正解‼……って弟君には一度断られてるんだけどね」
なるほど、これで大体予想はついた。
しかしどうしたものか、これから霰さんの様子を見に行こうと思っていたのだが、こっちもこっちで話が厄介そうだ。
……気が進まないが保険の先生に連絡して現在の霰さんの様子を伝えてもらおう。
スマホを取り出して、慣れないラインに丁寧に文字を打ってゆく。
「もしかして用事あった?」
「全然大丈夫……です。これでよしっと。とりあえず廊下で立ち話もなんですし場所を変えましょう」
そう言いながらスマホをポケットにしまうと保健室ではなく食堂に向かって歩み始めた。
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