35 勝者のお願いですが?

 こいつの兄貴にしてやられた、と言うか運が悪かったな。


「で、おねいちゃんお願いなんだけど」


「あぁ、そうだったな」


 この勝負紫芝が勝ったら私のできる範囲でお願いを聞く約束。


 めんどくさいから約束なんてバックレてもいいけど、こいつとの今後の付き合いために叶えられる願いは叶えた方がいい。


 お金は家にある物を売る。確実に勝てると思ったからバイトするとは言ったが死んでもしない。誰が雑用みたいなことをするか。


 それにバイトしてるとこいつに思いこませればこいつとの付き合いはお弁当の受け渡しだけ、遊びに使っていた時間を私の自由の時間に変えられる。


 シ〇バニアハウスか? たま〇っちか? まさかこういう奴に限ってゲーム機? 金で解決ならまだダメージも少ない。


 一番最悪のケースは『弟と仲直りしろ』だ、この言葉を言われた瞬間こいつと共にお弁当も切る。下僕に頭を下げるより餓死するのを選ぶ。


 さあ願いは何だ。


 紫芝は立ち上がると笑っていた表情から真剣な顔になり、楓の目をじっと見つめながら震えた声で願いを叫んだ。


「私とお友達になってください‼」


「……あ”?」


 予想外の変化球きたぁ。


 友達って、友達の事か?


「今年不安だったクラス替えがあってね、クラスが変わっても友達は友達だと思っていた。けど、そう思っていたのは私だけで一年生の頃からの友達は皆変わったクラスに馴染んで沢山の友達を作って、クラスに馴染めなかった私は段々と孤立して、気が付けば友達がいなくなっちゃった」


 みんなと仲良くするための学校の計らい。仲のいい人間をクラス別に分けさせ他にもお友達を作ろうと一見よさそうに見えるクラス替えだが、自分の意思を出せない弱者にはクソ迷惑なイベント。


 前のクラスの友達がいないと自分の行動力に頼るしかない。だが趣味が合わない、声が小さきもの、出遅れたものは孤立する。


 こうして孤立する人間が一人や二人現れる。


 バカらしっ、私だったら男子にこびうってさっさと友達作るの……に……。


 そこで楓は気づく、友達の作り方とは? 親衛隊は友達なのか?


 下僕や親衛隊はただの人生と言うマップの中の駒でしかない。友達ってなんだ?


 考えれば考えるほど沼には待ってゆくそんな中。


『あんた女王様のつもり?』


『うざ』『キモ』『クスクス』


 外見もブス。中身もブス。そんでバカで集団行動しかとれない雑魚でクソな女どもの言葉を思い出す。


 ふっ、何思い出してんだか。どうでもいいだろ、私に友達がいないことなんて。今、考えるべきことは紫芝のお願いだ。


 スイッチを切り替えるように楓自身の考えを今は捨て、紫芝のお願いについて真剣に考える。


 んー、あー、ああ、ああああーあ、めんどくせえ、めんどくさい‼ うざいしなんだこいつ。年が離れていて、こんなひねくれた私と何で友達になりたいんだかなぁ。こいつも私の性格把握してきたはずなのに。


 だが、この条件なら簡単に飲める。私の自由な時間は前より減るのだがお気に入りの洋服たちも売らなくてすむとポジティブに考えるべきか。


 そう結論に至った楓は、死ぬほど嫌そうな顔で。


「いい、友達になってやる」


 そう言ってやった。


「ホントに‼」


 願いが通るとは思っていなかったのか固まっていた体の緊張が解かれ、紫芝はふにゃふにゃとベンチの上に戻りホッと一安心している。


「ただし、お前が他に友達が三人できたら私はその時友達をやめる。それが条件だ」


「わぁ、ありがとう」


 それでも笑顔でありがとうかよ、畜生。


 見せかけだけの友達、本当の友達では無い仮の友達がこうして出来上がる。


 つながりも、長い時間を過ごしてきたわけでもない二人が。


「それじゃぁおねいちゃん、何して遊ぶ?」


「友達になりたいって言ったのはお前だろ、自分で考えろ」


「じゃあ鬼ごっこ‼」


「疲れる、却下だ」


「じゃあかくれんぼ?」


「二人で!? あほかつまんねぇだろ‼ 他、他の遊び‼」


 この時の楓は、さっさと友達をやめる手段『私以外、三人友達を作らせる』事を考えており、紫芝を支配する欲求は心の中から消えていた。

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