34 欲求ですが?
「ゲームをしない?」
紫芝にそう言いながら五百円玉を取り出した……のだが。
「嫌かもです」
と笑顔で一言返された。
「……何で。いつもなら遊びに付き合ってくれるじゃん」
その紫芝の反応に欲求が少し冷め真顔になりながらいじけるように話す楓。
「だっておねいちゃんズルする気でしょ?」
このガキ鋭いな。イカサマする気満々だったの悟られた。
「しない。絶対しない。百パーイカサマしないよ~」
口笛を吹くそぶりを見せながら紫芝をこちらのペースに引っ張ろうとするも。
「ほら、言葉が優しくなった! 絶対おねいちゃん何か考えているでしょ‼」
完全にバレバレだ。だがそれならそれでいい。やる気が無いならやる気を出させるまでだ。
紫芝の次の言葉を待たずに楓はコインを親指に乗せると弾いて見せる。
目視で分かるほどゆっくりとコインは回転し、空中で五回転後した後弾いた手でキャッチしようとする。
『トサッ』
つかもうとした手は五百円玉を空振り、そのままコインが砂の上に落ちる。
何事もなかったかのようにコインを拾い上げ砂を綺麗にハンカチで拭きおとすと。
「ゲームルールは簡単、このコインの裏か表を当てるだけ。本来数字が書かれた方が裏だが今回は分かりやすく五百と書かれた方を表とする」
説明を淡々と続けた。
紫芝は楓がコインをキャッチした後から何も言わず黙ってルールを聞いている。
「紫芝が言う、私がするかもしれないズルと言う行為を防ぐため五百円玉の確認を隅々までしていいよ」
そう言うと楓はコインを手に紫芝の方へと差し出した。
紫芝はそのコインを受け取ろうとせず、頭を傾けて疑問に思ったことを楓に問いだした。
「このゲーム負けた時どうなるの? ただの遊びじゃないんでしょ?」
「んーそうだな紫芝が負けた時はこれからずっと毎日私がいいと言うまで弁当を持ってこい」
「えっ、いつも通りでいいの?」
「ああ」
最初はやる気のなさそうな紫芝だったが腕を組んで真剣に考えている。
今はこれでいい、今は小さなお弁当一つ。小さなことの積み重ね続けいつか次第に大きくなる。このゲームをきっかけにこいつを佐一に変わる下僕二号に育てればいい。
考えろ考えろ。おまえはこの勝負を受ける判断をした時点で私の勝ちは決まっている。
私が使おうとしているトリックはコインを二枚、同じ年代の五百円玉を使った簡単なもの。
まずは二つのコインに目立つ傷、汚れを一か所つける。最初に見せるときとと最後に見せる時イカサマをしていないことを相手に確認させるためともう一つ些細な傷をカモフラージュさせるための煙幕みたいなもの。
そして最初に投げた下手糞なコイントス。これも計算のうち。
相手に回転数が分かるようにゆっくり投げるのは『こいつは下手糞だ』『勝てる勝負だ』等の思考に至るように押しやり、やる気にさせるのと同時に私もその回転把握できる。
後は簡単もう片方の手に握った『裏向き』のコインを被せるのと同時に手の甲に落ちてくるコインを『表向き』になるようにさりげなくキャッチする。
落ちるところまでゆっくり見えているんだ、こうすれば相手は確実に表を選ぶだろ? 後はコインを見せるときに蓋を開けるように見せるのではなく横にスライドさせて見せる。表のコインを抜き取り裏のコインだけが残るように。
マンツーマンの時にはこの場面少しコツがいるけど、大人数がいる場面ならもっと簡単にコインを入れ替えられる。
終わった後はイカサマを使用していないことを視聴するため『裏』として用意していた二枚目を相手に渡し、傷や汚れを隈なく見させる。その注目している最中が盲点。
この動揺している最中に相手に負けを認めさせる状況を作るか、最初に投げたコインはどこかに隠せばいい。靴の中、服の中、カバンの中。今回の相手は小三のガキだからこの中のどこでもいいけど、相手が相手なら念には念を入れて隠す。自販機などの周りの物、そんなものがないのなら自分の体のどこを使っても。
「で、やるか決まったかな?」
「うーん負けた時はわかったけど、じゃあ私が勝ったときはどうなるの?」
「え、あぁ~」
やべ、勝てる勝負を仕掛けてるからこいつが勝ったときのリターンを考えてなかった。
勝ったときのリターンがあまりにもデカすぎると『イカサマするぞ』ってのがバレバレになるからな~。
う~ん、最初に大きなことを言って、規模を縮小させれば適当でもなんとかなるか。
「じゃ、お前が勝ったらお前の望みを何でも一つ聞いてやろう」
「えぇ……」
「正し、私が出来る範囲の事だ。例えば、おもちゃを買ってやるとか。今はお金が無いけど一応私高校生だし一か月バイトすればこんな願いはすぐにかなえられる。これが出来る範囲ととらえろ」
「ああ、なるほどそれなら……やってみようかな」
そう言って紫芝は楓の渡してきたコインを受け取りくまなくチェックした後楓に返した。
お、食いついた食いついた。やっぱガキはちょろいな。
「じゃあさっそく」
そう言いコインを親指に乗せ弾こうとしたタイミングで再び声がかかる。
「もし、おねいさんがズルをしていることが分かったら?」
ッチ、質問ばっかりで答えるのが段々めんどくさくなってきた。適当に流してさっさと始めよ。
「え、あーお前の勝ちでいいよ」
そういい楓は回転数を数えるため上を見上げたままコインを弾く。
一回、二回、三回、四回と回転しそのまま重力に従い、楓の手の甲へと吸い込まれていく。
「さあ、裏表どっちだ」
そう問いただし紫芝を見た瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎる。
紫芝は何処からかスマホを取り出しており、目線は手の甲ではなくしっかりと私の顔を見ていたからだ。
そして紫芝はニヤリと頬を上げ、楓の手の甲に指を指し。
「下が表、上が裏‼」
そう大きな声で宣言した。
「どう? 当たってる?」
う、嘘だろ。何で見抜かれた、それもピンポイントに……いやまだだ。
「え、えっとね紫芝ちゃんこれはコインの裏か表かを当てるゲームで……」
「でもおねいさん二枚五百円玉握ってるよね」
「も、持ってないって」
「じゃあ開けてみてよ。もちろん上に上げるように手を外してね」
こいつ、このトリックをどこかで見聞きしたな、クソ‼
まだあがける。と脳をフル回転させ上に乗せたコインをそのまま引き戻す。そうすれば残るのは一枚の表コイン、こいつの回答は表と裏の二枚だ。
楓が考事を実行しようと手を動かそうとしたとき紫芝が再び口を開く。
「最後の質問におねいさん、自分でズルの事認めてたよ」
その言葉を聞いたとき、少し、ほんの数分前の会話を思いだす。
『もし、おねいさんがズルをしていることが分かったら?』
『え、あーお前の勝ちでいいよ』
これだ、この私の返答でイカサマを確信の物にしたんだ。
多分膝に置かれたスマホは回転数を撮影する道具ではなく私の言葉を録音するため、ボロを証拠として残すための道具。私は回転数を数えるため投げる前から上を向いていたからスマホを出したのに気づかなかった。このガキに、してやられたな。
そんな思いで負けが確信した勝負に段々と熱が冷めてゆき。この後のことがどうでもよくなり。
「あー-負けだ負け! 私の完敗」
そう言いながら両手に握った二枚のコインを両手で放り投げた。
「あー駄目だよお金は大切にしなきゃ」
そう言うとベンチから飛び出すとトテトテと言う効果音を本当に響かせながら地面に落ちたお金を拾い上げベンチに力の抜けた様子でだらけて座る楓の元に戻って来る。
「どうして、イカサマがピンポイントで分かった」
「うっ」
「コインを使ったイカサマなんぞ何十種類も存在する。テレビで見たとかネットで見たとかいろいろあるけどこのイカサマ使うと何故分かった、何故見抜けた」
何故聞いたのか分からない、ただ知りたかっただけなのか。
その問いに対し、紫芝は考える間もなく頭を掻きながら。
「えっと、実はおねいちゃんがやった同じコインを二枚使ったズルしか知らなくて。おにいちゃんに見せてもらったんだけど」
またお兄ちゃんか。
……その言葉を聞いたとき、なぜか佐一の顔が脳裏にうかんだ。
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