33 少女ですが?

 時は日曜の朝にさかのぼる。


 深ノ宮佐一の姉であり、三女の深ノ宮楓は朝早く家をでて一人公園のベンチに座っていた。


 家にいても食べ物は無い。外に出ても親衛隊は下僕の流したデマのせいで食料を恵んでくれない。食糧を買おうにもお金が無ければ食べ物にあり付けない。


 じゃあどうするか?答えは簡単。


「おねぇちゃん、おはよう!」


 親衛隊も佐一も関係のない、私に従える一人下僕二号を作ることだ。


 トテトテと効果音がつくような走りでベンチに座る楓に近寄ると「はい!」っと笑顔で四角い包を差し出す。


 この子、夕暮れ時にコロッケをくれた少女。名前は紫芝 之多(ししば のた)小学校三年 商店街の肉屋の娘らしい。


 あの出来事があってから私は放課後公園に来てベンチに座っている、するといつも帰ろうとしたタイミングで紫芝はコロッケを片手に来てくれる。


 その言動を見てこれは使えると思った私は仲良くなったようにふるまって、この短時間でこいつが作っているであろう不格好なお弁当をゲットできる仲まで発展した。


「遅いがまあ合格点だろう」


 すました顔で受け取る楓だが、内心ほっとしていた。これに人生がかかっていると言っても過言ではないからだ。


 身内でもない数日の付き合いの小学生にお弁当を持ってこさせるという行為に楓のプライドはズタボロだが、生きるためそして佐一を下僕に戻すために、こうして毎日このお弁当をもらい三回に分け食事をし生きていられている。満腹になるまでは食べられないものの下僕二号のおかげで毎日元気に過ごせている。


 だから……少し、いやミクロ単位ぐらいには紫芝には感謝している。勿論下僕(佐一)に頭を下げ謝ることなど一ミリも思っていない。


 包を開き、ゆっくりと朝食をとり始める楓の隣に紫芝はジャンプして座ると。


「おねいちゃん。おとうとさんとはなかなおりできた?」


 ど直球に質問を投げかけてきた。


 お弁当の具を吹き出しそうになるが栄養を動揺で失うわけにはいかないと口に力を入れて思いっきり飲み込む。


 そうだった、お弁当をもらうためと仲良くなるために現状を嘘を混ぜつつ話したんだった。


「急になんだよ……出来てないよ。つうか謝る気もない」


「どうして?」


 純粋な目でこちらを見つめる。


 紫芝に話した事は『弟と喧嘩をした』『自分は家事ができない』『お金は財布を落としてしまってあまり持ってい』ってとこか。喧嘩の原因までは話してなかったよな……。


 楓は頭を抱え今まで行ってきたこと考える。『睡眠剤』『クレカ泥棒』『すべての家事を任せる』百パー他人がこの喧嘩の原因を聞いたら佐一の肩を持つだろう。


 今考えたことを紫芝に話したら速攻でお弁当の道が切れそうだ。


 嘘を考えろ私。今まで嘘を積み重ねてきただろ、喧嘩の原因を嘘で塗り替えろ。私ではなく弟が悪い奴だと紫芝に思いこませるんだ。


 う~んと悩んで数十秒、簡単な突破口を見つける。


 そうだ全て『逆』にしてしまえばいいんだ。起こった出来事を全て逆に。


 そうと決まれば実行、楓はうつむき表情を暗く、同情してもらえる表情を作り上げる。


「……実話ね、私の事を睡眠薬で襲おうとしたり、家庭のお金を使いこんだり、私に洗濯や部屋の掃除を押し付けるの」


「ふ~ん、ひどいね……」


「ぐすん……」


 どうだ、これが裏表を操れ自覚している人間のやり方だ。これでお弁当も安泰だな。


「おねいちゃん」


「……はぁ?」


「家事を任せていたずらして、じぶんのおようふくばっかりかっちゃって喧嘩しちゃったんだね」


 マジか、完全に嘘がばれてる、低学年小学生嘗めてた。


「……なんでそう思う」


「え、う~ん。おねいちゃんっていつも違う服着てるし、何か考えてるとき言葉がやさしくなるというか。えっと、何て言えばいいのかな」


 要するに子供に裏表は通用しないってことか。


「……ああそうだよ、全部嘘だよ。どうだ幻滅したか」


 楓は隠すことなく開き直り、言葉をだす。


 あーあ、これでお弁当もパーか。こんなことになるなら嘘つかなきゃよかった。


「うんうん。おねいちゃん毎日遊んでくれたしそれに、私の作ったお弁当美味しいって食べてくれたから」


「だから、それは仲を取り持って食事にあり付こうと……」


「別に嘘でもいいんだ、私がその時感じた『楽しい』『嬉しい』に間違いはないと思っているから」


 横にゆらゆら揺れながら楽しそうに笑い喋る紫芝の姿は私にはわかる。裏表のない感情だということに。


「また明日もお弁当持ってくるね」


 何だこのガキ、むかつく。ものすごくむかつく。まるであいつみたいだ。だけど。


「おい、げぼ……ん~紫芝」


「うん? なぁにおねいちゃん」


 包み隠さず本心を喋れる人間がもう一人いることの嬉しさと喜び。それと同時に湧き上がってくるのは支配したい欲求と支配されたくない欲求。


「少しゲームをしない?」


 楓はその欲求を満たすため、優しくそう言うと五百円玉を一枚取り出した。

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