29 ゲームセンターですが?

「あ、遅いよ~鈴っち」


「ごめん。歩き疲れて、ドリンク飲んでたら遅くなっちゃった」


 鈴さんから少し距離をとりながらゲームセンター内に入り、篠崎さんを探すために辺りをぐるりと見渡すと直ぐに彼を見つける。


 一つのゲーム筐体の前に立つ彼は右腕を引き、勢いよく筐体についているサンドバックめがけて拳を叩きつける。


 『スパン‼』と言う音と供にモニターに映し出された文字は。


『score347 new record』


「もう少し行くと思ったんだけど、かなり腕がなまったなぁ」


 それを見た篠崎さんは、わざとらしく肩を落としていた。


 乃虎という彼女にべったりとくっつかれていると思っていたのだが、一人で遊んでいる様子だ。


 そんな篠崎さんに歩み寄ると、すぐに自分の存在に気づき話しかけてくる。


「お、お帰り弟君。もう用事は済んだの?」


「はい。ですが何故一人で遊んでいるんですか。暇をつぶすなら鈴さんや乃虎と一緒に遊んでいてもいいのでは」


 自分の考えを素直に話すと、篠崎さんは考える間もなく口を開く。


「確かにあの二人は俺の友達で、大利なんかはお前がいなくなってから別の場所に行こうとグイグイ引っ張ってきた。けど今日は『俺が』弟君を誘ってこのショッピングモールに遊びに来た。戻ってくると分かっているのに別の人間と遊んでいたら何だか仲間外れにしている感じに俺が思う。それだけの事だよ」


 にっこり笑いながらそう答えた。


「そんなもの……ですか……?」


「うん、そんなもん」


 だが佐一には篠崎さんの放った考えを言葉にされても意味がわからなかった。


 篠崎さんは佐一の心情に気付いたのか、深く考え込ませる前に次の言葉を掛けた。


「それよりさ、弟君もパンチングマシーンやってく? 後二回残ってるけど」


 篠崎さんが親指で筐体をさすが。


「?」


 不思議そうに首をかしげる。その様子を見た篠崎さんは驚いた表情を見せ。


「……もしかして弟君、パンチングマシーン知らない?」


「知りません。と言いますがゲームセンター自体に始めてきたので店内にある物全部遊び方が分かりません」


「そかそか、じゃぁまずこの機体パンチングマシーンについて説明するね。じゃあまず筐体の前に立って」


「……はい」


 言われた通り筐体の前に立つと、先ほど篠崎さんが倒したサンドバックが自動的に立ち上がる。


「パンチングマシーンはその名前の通り、叩いて遊ぶんだ。今起き上がったサンドバックを見た目をしたものが的。その的に向かってパンチしてスコアを出す……まぁ後はやってみた方が早いかな。やってみ」


 古い見た目の筐体が殴って壊れたりしないのかと不安に思いながらも篠崎さんの言うように恐る恐る拳を引き叩いてみる。するとモニターに表示された数字は。


『score106』


「百か、ギリギリ平均値だね。ほら筐体の横にスコアの目安が書いてある」


 篠崎さんの刺した方向に顔を向け、張られた紙をじっと見つめる。


『1~100score ひよっこ』


『101~200score 平凡』


『201~300score そこそこの実力者』


『301~400score 実力者』


『401~500score マッチョメ~ン』


『501~score 達人』


「友や世界中の人間と力というスコアを競い、ストレスも発散できる。これがパンチングマシーンの楽しみ方かな」


「なるほど、面白そうですね」


「だろっ」


 楽しそうにしている話している自分と篠崎さんに対しずっと聞き耳を立てていた大利 乃虎は自分のスコアが気になったのかこっそ近づき筐体に映し出されたスコアを見るとクスクスと笑いながら。


「やぁ~い、ざ~こざ~こ」


 とあおるだけ煽って、鈴さんのもとに帰っていった。


 一体何なんだあの人は、何がしたいんだ。


 冷たい目線で乃虎を追っていると。


「……き、気にしない方がいいよ」


 苦笑いしながら肩をポンポンと叩く篠崎さんに対し。気持ちを元に戻した佐一は。


「後一回残っているんですよね。遊び方は分かったのでもう一回やってみてもいいですか?」


「う~んいいけど……」


 篠崎さんの頭の中でこのまま最後の一プレイをさせていいものかといろいろ考えこんでいた。


 (弟君が来る前にあの二人もプレイしていたんだよなぁ。深ノ宮の方は弟君とスコアはほぼ変わらなかったからいいものの、大利のスコアは263。弟君がこれを下回るとまた煽りに来て不快な思いをさせるかもしれない。弟君本人は気にしないだろうけど。俺があんましいい気しないんだよな。)


「どうしたんですか?」


「ん~弟君が大利のスコア超えるか不安でねぇ……」


 (あ、思考が漏れちゃった)


 やっちまったと少し舌を出す篠崎に対し。


 少し考えた佐一は篠崎の発言で一つの結論に達する。


「……あ、もしかして乃虎にまた煽られると考えて、自分は気にしませんよ?」


「あはは、だよねー」


「……それに」


 篠崎さんの思考にも佐一は気づいていた。


 筐体の前に立ち、自動的に立ち上がるサンドバックに向かって構える。


「自分、負けず嫌いなんで、乃虎には負けませんよ」


 ゆっくりと深呼吸をはじめ。


『START』


 筐体に文字が出た瞬間、引いていた右足と共に体全体を呼吸に合わせ前に突き出し、全体重をかけた右拳をサンドバックにぶつける。


 『ドスン‼』と重い音を立てサンドバックが凹み、筐体のモニターにスコアが表示される。


『score497 new record』


 その表示を見た佐一は肩を落とし。


「五百、超えられませんでした」


 と小さくつぶやいた。


「お、弟君……」


 だが佐一以外、篠崎も周りにいたそのほかのお客も足を止め画面を見て固まっていた。


 篠崎はよく遊ぶためこの機体の事をかなり知っていた。


 このゲームのスコアは500以上あると公式から表記されているがそれは製作者の遊び心でつけられた物、一般の人がいくら本気を出しても400前後、500以上叩きだすにはバッドなどの道具で不正をするかプロボクサーなどを呼ぶしかない。


 つまり497というスコア、弟君のパンチはお遊びの筐体だとはいえプロに近い物だと言う事に気づき篠崎もギャラリーも驚きを隠せていなかった。


「弟君、何かやってた?」


 恐る恐る篠崎さんがガッカリしている佐一に聞くと。


「えっと……小学校の頃に……スポーツ系全般を少々」


「あ、そうなんだ」(それだけなのは逆に怖い)


「乃虎に、負けましたかね」


「いや、結構大差で勝ててるね~」


「そうですか! 良かった」


 安堵した表情を見せる佐一に、篠崎は恐怖を感じていた。


 そんな周りがざわつく中。


「おいごら‼ ここは私たちがプレイしてたんだぞ。ちゃんと両替中のパネルさして言ったじゃねぇか‼」


「そんな物ついていなかったけど」


 別の場所で何か揉め事がおこっていた。


 片方の男性の声は知らない人間の声だったが、女性の声は先ほど自分が煽られたときに聞いた声だったため篠崎と佐一は声のする方へと急いで足を動かした。

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