26 ちょっと昔の長男その一ですが? その1
タイトルの通り、この物語は少し前のお話です。
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そこは田舎とは違い人々が交差する街の大型ショッピングセンター。
天井はガラス張りで、食品、中古ショップから流行りものの店まで何でもそろう場所。
そんな場所、ショッピングセンター二階のお店の前でキラキラした表情で一人の女性が立っていた。
「念願のお店を持つことが出来るなんて」
名前は琴奈柴 吾鳥(ことなし あとり) 年齢は24歳 何の特徴もない何処にでもいる普通の女性。
自分の持つ第一店舗、レディース服の専門店『wisely(ワイズリィ)』の外見をずっと眺めていた。
ああ、何回、何時間、眺めても飽きない……自分の店を持つっていいなぁ。
両手を組み、店に祈りをささげていると後ろから軽く小突かれる。
「吾鳥さ~ん、そこ店の入り口ど真ん中なのでクソ邪魔です、いつまでも感動してないでさっさとどいてください」
大きな段ボールを抱えた二つ持ち上げた、細目でポニーテールで口元の小さなほくろが特徴的な吾鳥と同い年ぐらいの女性が、段ボールの陰から吾鳥を見ていた。
「んだとこの‼ 私はこの店の店長だぞ‼ 店員のお前より偉いんだぞ、だから梨桃、私のことは店長と呼べ」
「子供か」
店員に生意気な口を叩かれるも、軽く怒る程度それもそのはず。この店員は幼稚園からの腐れ縁の親友、向来 梨桃(こうらい りと)この店一人の店員で、店を構えるか迷っていた私の背中を押してくれた一人でもある。
「それにもうオープンして三か月ぐらいたつじゃないですか、経営も安定もしているのに、そんな事毎日してたらお客来なくなりますよ。今さっき来てたお客さんドン引きしてすぐに帰ってましたし」
「まじで! んなぁ、じゃあ店の内側から祈るか」
「祈りをやめるということから考えろよ」
梨桃は段ボールを店裏に置くと、一息つく間もなく再び店の入り口に戻る。
「まだ商品運び終えてないから、レジ任せるぞ」
「え~雇ったバイトちゃんは?」
「今休憩に入るように言っておいた。大体おまえが人件費ケチらなければこういうことにならないんだぞ。全く」
そうぶつぶつ言いながら梨桃は速足で言ってしまった。
「分かった、分かった! やればいいんだろ」
と去った梨桃に聞こえるよう大きな声でそう叫び、顔を膨らませながら、しぶしぶレジの前に立つ。
それと同時に店内に掛けてある鳩時計が鳴り始めた。
十二時、お昼どきなので食べ物を扱う店に人が集中し、この店にはいまのところ人っ子一人いない。
はぁ、チャイム聞いてたらお腹すいてきた。
今ならこの場で何か食べていても店の評価につながらないだろう。
そんなことを思いながら、レジ下に隠しておいた菓子パンを取り出し、大きな口で頬張り始める。
う~ん。何とも言えない普通のクリームパン。だけど仕事中に食べる背徳感これがたまりませんわぁ~。
ほくほくと小さな幸せをかみしめている琴奈柴。そんな至福の時間に、お客が入ってきたことを知らせる風鈴風のチャイムが鳴った。
「グフッ……」
その音にビックリしてしゃがみ込むと、胸を強くトントンと三回叩き、のどに詰まったパンを無理やり移動させる。
やっば、お客来た。早く対応しなきゃ。
急いで口に着いているであろうパン屑をハンカチでふき取るり立ち上がると同時に、にこやか笑顔で入り口に目をやる。
「いらっしゃ……」
私の言葉はそこで止まった。
店内に堂々と入って来たのは小さな男の子? 小学生高学年ぐらいだろうか。
その子は辺りをきょろきょろと見まわした後、普通にこの店に入ってきた。
何だこいつ、すました顔をして堂々とレディース店にはいってきやがって。
子供と言っても他の女性客が見たら男、いい思いをしないだろう。
仕方ない。お客もバイトもいない今、この私店長自らさっさと追い出してしまおう。
カウンターを出て男の子?に近づき、目線を合わせる。
「コラ、ここは男の子が来る場所じゃあ……」
優しく声をかけると子供はゆっくりと振り返る。
黒い髪におっきな黒目、着ているジャケットのボタンの位置を見る限りレディース服だ。
げっ、もしかして男女間違えた?
「すみません」
声をかけてくる子供の声は高く男か女か分からない。
ん~この場合どう対応していいのか。もし小学校高学年の女子だった場合。誰にも話せずこの店に来た可能性があって追い出そうにも。
「……あ、自分男で合ってますよ」
困って考えている私の間に何かを察したのか、自分の格好を一度見て子供はそう答えてくる。
「な、なぁんだ。良かった~。もし女の子だったら私死ぬほど……ってだったらなおさら、お前の来る場所じゃないぞ」
「自分も好きでこんな場所に来るわけないじゃないですか」
そう言うと子供は再び、棚に掛けてある下着に目をやる。
「ふぅ~ん」
そう言ってこの場所にとどまる気かこの変態ガキゃ。
にしても、こいつもろだな。Cカップ用ブラの場所でずっととどまっている。
首元を掴んで店から放り出すことなんてすぐできる。お客もバイトもいない暇な時間、この子を少しイジメて懲らしめてやろう。
「で、君は何をしにここに?」
「姉の下着を買いに来たんです」
「へぇ~そう。自分の下着を買わせるのに弟に頼むかね。普通は母親か自分で買いに来るはずだが」
さあ嘘を付くか? それとも変態ですってぼろを出すか?
数秒間があったが子供はこちらを見ず顔色一つ変えずに答えた。
「母は病気で死にました。姉は酷いいじめの後遺症で引きこもってます」
うっ……嘘だよな。そう、嘘を並べて誤魔化そうと……
「父は家庭放棄、その他に姉が三人いますが、一人は少し頼りなく、一人は個人主義、一人はクズと頼めない事情があるんです」
すらすらと出る言葉に、この子が言っていることは嘘ではないということがはっきりと分かる。
それと同時に嫌なことを話させてしまったという罪悪感に思考は埋め尽くされ、心には重たい石がのしかかったように苦しくなった。
「それで『嫌い』な姉さんのため、唯一動ける自分が買いに来たんです。これで本当に買いに来た理由はいいですか?」
複雑でイメージできない家庭環境、言葉が出なくなる。固まり、重い空気、その状況でも口にできた言葉は。
「……ごめんなさい」
の一言だった。
「? 何で謝るんですか。迷惑なことをしているのは自分だと自覚しています。だから早く選んでお店を出たいんですけど……」
「もしかして、どれを買えばいいか分からない?」
「はい」
その言葉をいい終わると男の子は棚を見上げまた悩み始めた。
そんな彼を見て私は追い出そうとした申し訳なさ、笑い半分でずかずかと彼の心情に踏み込んでしまったことを後悔した。
だが、後悔してもやらかしてしまったことは取り消せない。だから、一つ深呼吸して頭を切り替え、彼に何かできることは無いかと考えた結果を口に出す。
「よし、じゃあ私が手伝ったるわ。こう見えてこの店の店長なんでね」
彼の目線を合うようにしゃがみ込み、にやりと笑いながらもしっかりと目を見つめて言い放つ。
「……ありがとうございます」
少年の顔には不思議と怒っている様子は無く、何だかホッとしている表情に見えた。
そうと決まれば。
私は立ち上がるとブラジャーのかかった棚に手をかけながら少年に問いただす。
「君、そのお姉さんのバストサイズ、トップとアンダーの差とかわかる?」
自分が作りだした重い空気を打ち消すように明るく声をかけた。
「とっぷ?あんだぁ?」
子供は困った顔をして首を傾げた。
まぁ分からないだろうな、男の子だし。
しかし困った、サイズが分からないと買うにも買えないぞ。あ、そうだ。
「ね、『携帯』持ってる?」
「持ってます」
「よしじゃあちょっとだけ携帯を貸してくれないか?」
「いいですけど……」
よし、携帯を持っているなら、サイズの図り方を教えて、ネットで買う方法を教えればいいんだ。ん~天才。
今やインターネッツ時代、ネットでできないことなど何も……まずは通販アプリをダウンロードさせて……
そう思いながら少年から渡された携帯は、長方形でぱたんと折りたたまれた黒いもの、いまやあまり流通していないガラケーというやつだった。
あ~『携帯』を持っていると言っただけで『スマホ』を持っているとはいってないよなぁ……。ガラケー……昔はつかってたんだけど、スマホの便利さに記憶を上書きされて使い方など覚えていない。
「あの」
少年が冷や汗をだらだらたらした私に声をかけはっとし。
「いや……えっ……と……別の方法を考えるから少し待ってね‼」
と焦っているのをごまかしながら言いながらガラケーを少年に返した。
…………
……
あれから数十分経っただろうか、一応トップ、アンダーのことを説明し、サイズのはかり方を教えてから少年を座らせいる。
そして私は対策を考えてみたが思い浮かばない。
やっぱり日を改めて彼にお姉さんサイズを測ってきてもらって、ってでもかなりの時間待たせちゃったからな。
考え続ける琴奈柴に対しソファに座っていた少年は時計を見ると立ち上がるりこちらに近づいてきて。
「もう考えなくて大丈夫ですよ。お昼終わって他のお客さん来るかもしれませんし」
少し微笑みながら心配そうな表情で話しかけてくる。
「でも」
「自分のことはもう気にしないでください。どうにでもなりますから」
これでいいのだろうか? 来てくれたお客さんの個人情報を聞き、無理やり話したくないことまで離させてしまったあげく自信満々で『手伝ってやる』と言い放ちながら一時間座らせていただけで何もできていない。
「知らないことを教えてくれたり、考えてくれてありがとうございました」
とぺこりとお辞儀をして去ろうとする後姿をみて。考えるのをやめた吾鳥は少年の腕に勢いよく掴みかかる。
いや絶対に駄目だ‼ 一お客様としても個人的な感情だとしても。
「まって‼」
掴む私の手を一度見てか不思議そうに少年は私の顔に目線を向ける。
「写真。そのお姉さんの写真ってある?」
「あ、あります」
動揺しながらも、さっきのガラケーを取り出し、眼鏡を掛けた一人の女性の写真を見せてくれた。
「でもその写真三か月前にとった写真ですよ?」
ウインクした後、琴奈柴は写真をまじまじと見て。
「大丈夫大丈夫、まかせて」
大体これぐらいだろうなと考え棚から数着取ると少年に差し出した。
「ふい、お待たせ。分かんないならお姉さんのサイズに合いそうなの全部持っていきな。お代は私が全部持つ」
「えっと……大丈夫ですよ本当に」
「い~や、私が嫌なんだ。お客を不満で返すのがな‼ だが約束してくれ、次から下着を買うときもうちの店を利用すると」
少年は考えて、少し笑みをこぼすと。
「ありがとうございます」
そう言い、それ以上何も言わずに受け取った。
「分かりました。じゃあまた来ます今度『も』ちゃんと買いに」
「おう、また来いよ」
ペコリと一礼してそう言い残し去っていった。
「ふぅ。これでいい。少年も満足。私も満足」
絡みあった糸が綺麗に溶けたように頭の中がスッキリした琴奈柴は一息つき、ほくほくしながらレジに戻ると。
「え、いつ置いたんだこれ」
いつの間にかカウンターには万札が三枚置かれていた。
「しっかりしてんなぁ。あと多いな……金」
その時、渡した下着より代金をより多く貰ったけど返すにも連絡先を知らないので少年が次もちゃんときてくれるか不安な琴奈柴 吾鳥であった。
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それから月日がたち五年が経過した。
あれからというもの佐一は半年に一度琴奈柴 吾鳥に個人的に連絡してお客があまりいない十二時にお店に来て買い物をしていた。
そして今日、また佐一から連絡が来ており『日曜日のお昼、お店に伺ってもいいですか?』速攻『OK』の可愛らしいラインスタンプを送った。
「ふんふん♪」
あの子が今日お店に来ると頭の中で考えていると上機嫌になりながら鼻歌交じりに服をお店の棚に掛けていた。
そんな吾鳥に対し梨桃は冷たい目線を浴びせながら話しかける。
「吾鳥さんずいぶんご機嫌ですね。また例の少年が来るんですか?」
「そうそう。半年ぶりに来るってラインが」
スマホ画面を見せつけるように梨桃の顔面ギリギリに近づけるがスっと手で払いのけられ一つため息を付く。
「……その子、そんなに気に入っているんですか?」
「まあね。あ、もしかしてやきもち焼いてる?」
少しおちょくる感じで話た吾鳥、どうせスルーされるからいいか。と思ったが想像とは違いむっとした様子の梨桃は少し切れ気味に。
「上機嫌なのはいいですけど真面目に仕事してください」
釘を刺し梨桃は品物を取りに店を出て行った。
「……あれ? もしかしてマジで焼きもち?」
そっか、うまい具合にかみ合って梨桃はあの子にあったことないからかな。知らない子の事を沢山喋れば切れるのも当然か。
よし、梨桃が戻ってくるまで佐一をこの店にとどめて合わせよう。
そんな決意をして約束の時間。十二時を知らせる鳩時計が鳴る。
「店長‼」
その音と同時にバイトがレジから勢いよく走ってきて私に声をかける。
「店長、お店に男の人が……」
お、約束の時間ピッタリ。
「休憩に入ってもらって大丈夫、あれは私のお客だから」
と言うと焦った様子でバイトの子は一目散にこの場を走って行った。
よっぽどお腹がすいていたのか? まあいいやあの子に会える。
そんなワクワクした気持ちを胸に笑顔で。
「いらっしゃ……」
い、というまでに目のお前の人物を見るや否や言葉が詰まる。
「どうも」
そこの立って声をかけてきたのは全く知らない人物。黒いスーツ右目の周りに大きな傷をつけたオールバックの大柄な男がいた。
表情筋は笑顔で固まっているものの内心冷や汗を垂らしていた。
大量の?マークを頭に出して。
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