24 投げられますが?

 まさかショッピングモールに着いた途端、鈴さん達と鉢合わせるとは。


 偶然が過ぎるので、一応篠崎さんの方に顔を向け睨みつける。


 すると篠崎さんは高速で左右に顔を振った。


 だとすると本当に偶然なのか? 鈴さんの方に再び顔を向け、状況を確認する。


 確か体育館裏に呼び出されたとき、篠崎さん以外にいた人物は鈴さん含め四人。だが、今目の前にいるのは鈴さんともう一人。


「嘉義じゃん!」


 確か鈴さんの隣に座って喋っていた髪色と背丈が印象ちっこい先輩。


 篠崎さんを見るや否や、鈴さんの陰からひょっこり出てきた水色のちっこい先輩が腕を掴もうとするが、この状況に慣れているのか篠崎さんは華麗に左に回りよける。


「もう、毎回避けることないじゃん……あ"?」


 水色のちっこい先輩が篠崎さんではなく、こちらに顔を向けると鋭い目つきに変わった。


「あんた誰? 嘉義と何やってんの?」


 二度食堂と体育館裏で会っているはずなのだが、きれいさっぱり忘れている様子だ。


 篠崎さんに向ける言葉とは裏腹に、明らかな攻撃的な言葉に対し。


「中学二年、佐一です。篠崎さんから誘われて無理やり遊びに付き合わされているんですよ」


 そっけなく答えると、何事もなかったかのように篠崎さんの方を向き。


「ねーこんな偶然的な出会いってあんましないんだから、こんな奴ほっといてこれからうちらと遊びに行こうよ~」


 コロコロ声色が変わる人だ……ん、でもどっかでこんな感じの人見たことあるような。


「ごめんね~今日はおと……こいつと遊ぶ約束を前からしててさ。今日は無理かなぁ」


 自分の頭に手を置き、わしゃわしゃとなでる篠崎さんに対し、冷たい目線を送る佐一だが、内心は少しほっとしていた。


 まず今現在弟君呼びを速攻でやめてくれた感じ、この人の言動は信頼に値する。学校での約束を破り、面白がって鈴さんをこの場に呼んでいた場合、この人の性格的に友達を連れている状況ではなく、鈴さん一人を呼んでいた方が面白いと感じるはず。


 そんな感じの思考に至った佐一は、篠崎さんを『一応』信用することにした。


 だがこれからどうする? 個人的にはちっこい先輩がいるので鈴さんと自分が家族というボロが出る前に別行動をとりたいのだが。


 篠崎さんが、棒読みで笑いながら無理だということを話すと、不機嫌そうな顔を一瞬見せると水色のちっこい先輩に再びこちらに顔を向け、今度は歩み寄る。


「あんた何者? 嘉義と親しそうにして」


 ……少し面倒なことになった。


「何者かと聞かれても……ただの後輩で、知り合い……以前の関係で、決して親しいわけでは」


 その言葉を言い終わるや否やちっこい先輩に制服の胸ぐらをつかまれる。そんな状況に佐一は少し驚いた。


「じゃあ付き合わなくていいでしょ、さっさと帰れよ」


 言葉に強い圧を感じる。だが驚いたのはそこではない。


 この人、見た目の細い腕の割に力が強い。掴みかかる一瞬、手の指にできたタコが見えた。何か『習い事』をしているから見ず知らずの自分に強気に喧嘩を吹っ掛けてきているのか。


 年下で、体格が自分と同じぐらいだからって理由だけじゃない。ただ気に食わない、そんな瞬間的な感情に身を任せこの人は行動している。


「乃虎ちゃん‼」


 鈴さんが困っているのを見て、篠崎さんがやれやれとした表情を見せながら止めに来るのを佐一は睨みつけ足を止めさせた。


 前言撤回、別行動は無しだ。この人は鈴さんに悪影響しか与えない。鈴さんには悪いが『同行』してくれるように仕向けよう。


「断ります」


 自分の胸ぐらをつかむ手を払おうと手を伸ばす。すると。


「そう」


 その一言と共に、鈴さんに乃虎と呼ばれた女性は佐一の足を払い、背を向け、掴んでいた胸ぐらを思いっきり引き、佐一をコンクリートの地面に叩きつけた。


 急に辺りに鳴り響く『ドン‼』と言う大きな音と衝撃で周りの視線が倒れた佐一に向けられる。


 ざわざわと辺りが騒がしくなる中、鈴さんと篠崎さんは唖然と、乃虎と呼ばれた女の子は動揺もせずすました顔で倒れた佐一を眺めていたが、ものの数秒後、地面に叩きつけられた佐一は何事もなかったかのようにゆっくりと体を起こし。


「びっくりしました」


 少しだけ驚いた表情をして一言残し、制服についた泥を手の甲で叩き落とした。

 

 イラダチを顔に出す乃虎を退け、篠崎さんが駆け寄って耳元で小さく話しかけてくる。


「弟君、マジで大丈夫? 手から血出てるけど」


 焦ってこいつ呼びから弟君呼びに戻ってる篠崎さんに対し。


「大丈夫です、『下手糞』な投げだったので手の小さな擦り傷以外特に外傷はありません。『チビ』じゃなくて篠崎さんくらいの体格があれば結果は変わっていたかもしれませんが」


 乃虎と呼ばれる女の子にはっきりと聞こえるようそう告げた。


 だが自分でも驚きだ。まさか投げ飛ばしてくるとは。一発ビンタとかグーで殴られるのを読んで構えてたから、少し受け身をとるのが遅れて怪我してしまった。


 まあ普通、力づくで帰らせるために投げ飛ばすなんて考えないよなぁ。


 何にせよ気に食わないと思う人間に普通に暴力を振るう女の子。この人も『変える』必要がある。


 そう考えながらバックから取り出した消毒液と包帯で怪我した両手を軽く治療し終えると。乃虎に皮肉たっぷりな笑顔でお辞儀すると。


「篠崎さん行きましょうか」


 篠崎さんの手を握りさっそうと歩きだす。


「お、おう。またな深ノ宮、大利」


 篠崎は佐一の行動を何か察したかのように引きずられながら二人に笑いながら別れを告げた。


 ん~煽りが少し足りなかったかな、これで付いてきてくれるといいが。


 二人の背中が小さくなる中。大利 乃虎は佐一の計画通り、怒りをあらわにして、こぶしを握り締ながら。


「絶対に嘉義からあいつを引きはがす……行くよ鈴ちゃん」


「えぇ……」


 佐一の計画通り二人の後嫌そうな次女鈴を引っ張る形で走ってついていくのであった。

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