23 不審者ですが?

 薄暗い部屋にカーテンから朝日が差し込む。


「ははは……これで僕のターンは無限だぁ……」


 霰さんはコントローラーを握りながら寝息を立てている。


 土曜日の昼から約束していたゲームをプレイして現在日曜午前六時、テレビが映す桃鉄のゲーム画面は日本の三分の一が霰さんの1P色に染まっていた。


 後半両端の線路を『う○○カード』で封鎖され動けなくなり、ほとんどAボタンを押して画面を眺める作業をしていた佐一だったが霰さんが満足げに眠る姿を見てほっと一息ついていた。


 霰さんに掛け布団を掛け、ゲーム機の電源を切ると、体を伸ばすように佐一は立ち上がる。


 土曜日はほとんどの時間を霰さんに費やしたが、日曜日の今日も予定がある。


 ポケットからスマホを取り出し、篠崎さんから通知が来ていることを確認した後気合を入れて、霰さんの部屋を静かに出た。


 その後昨日貯まっていた家の仕事を急いで片付け、制服に身を通す。


 時間を確認し、玄関に行くと靴を履く。そんなタイミングであくびをしながら鈴さんが二階から降りてきた。


 こちらを見るが喋りかけずにキッチンに行こうとするので。


「あの、今日のお昼ご飯自由に食べててください。お金は食卓テーブルに置いてますから。もちろんお金は『三人』で分けてくださいね」


「……ん」


 とだけ言い残しキッチンに入っていった。


 多分分かってくれただろう。財布にスマホ……よし行くか。


 確認を終え、玄関のドアを開ると駅へと向かった。


==========



 約束の時間午前十時、から三十分ほど過ぎたころ。となり街の時計台の下で深ノ宮 佐一が待っていると、息切れしながら篠崎さんがやってきた。


「ごめん、遅れた、大分待たせちゃったかな」


 凄い汗、服装の乱れや靴のずれから見て遅刻は演技でもなさそうだ。篠崎さんにも何か事情があるのだろう。


 佐一はそう考え、暇つぶしに持ってきた本を閉じると。


「待ちましたけど平気です。慣れてますので」


 今日はこの件の他に別の用事もあるのだが、一応申し訳なさそうな顔をしていたので、気にしていない様子を見せた。


「優しいな弟君は~」


 そう言いながら、抱き着きほ頬ずりして遅刻したことを水に流そうとする篠崎。


 だが遅刻は遅刻、その行為にさすがにピキっと来たので。


「ですがいつものように笑って茶化しながら遅刻したことを誤魔化すのなら帰ります」


 言葉を聞いた篠崎さんは慌てて離れると。


「ごめんごめんって‼ 遅刻して本当に申し訳ない」


 そう言いながら地面に額をこすり付けた。


 この人、プライドとかなさそうだな。


 普通に謝るだけでいいのに、通行人の視線をこちらに向かせ自分が困る姿を見るためワザと土下座したな、この状況も楽しんでる変な人。


 まあ、人に見られても恥ずかしくも何ともないので、とにかくふざけている様子なので帰るか。


 土下座させたまま、無言で帰宅しようとすると、がばっと肩を掴まれ振り返ると。今度の篠崎さんは無言で頭を下げていた。


 何がしたいんだこの人。


「はぁ……で、何処に遊びに行くんですか」


 深いため息をつき、尋ねると篠崎さんはゆっくりと自分の肩から手を放すと。


「ん~決めてない。とりあえず急いできてのど乾いているからコンビニ行って飲み物買いたい」


 ケロッと篠崎さんはいつもの調子に戻り二人は歩き始めた。


「で、ずっと気になってたけど何で制服なの?」


「外出用の服が無いからですね」


「ふ~ん。じゃあコンビニ行った後服見に行こうよ、休日まで制服なんて堅苦しいしさ」


「お金がもったいないのでいいです」


「つれないなぁ……それにお金の心配してると楽しめないよ」


「楽しもうと思ってきてませんから大丈夫です」


「ぷっ、くっくっ。いやぁ、弟君はいつも通りで面白いなぁ」


 笑いをこらえきれず手で口を隠すように篠崎さんは小さく笑う。


「笑うところですか?」


 そんななんでもない会話をしながら最初の目的地であるコンビニにたどり着いた、のだが。


「……なんで雑誌読んでるんですか。飲み物買うのでは?」


 篠崎さんは、雑誌に手を取ると立ち読み防止の紐を外すとペラペラとめくり始めた。


「飲み物も買うよ~でもこの後のこと何にも考てないから今焦ってプラン練ってるの。ねえこの店のこの服なんて弟君に似合うんじゃないかな」


 と勢いよく雑誌のページを見せてきた。


「だから買いませんって」


「ちぇ、じゃぁ別のと」


 そう言いながら紐を器用に戻し、別の雑誌に手を付けた。


 これは長い時間かかりそうだな。こんな非常識なことをしているのに店員も注意しに来ないし仕方がない。


 お店自体に迷惑がかかりそうなので、自分が買おうと篠崎さん戻した雑誌を手に取りレジに向かった。


「そこを何とか頼んます‼」


 レジに並ぼうと向かった先で大きな声が聞こえる。


 大柄で黒いスーツを身に着けたスキンヘットの男がレジにで何やらもめていた。


「あ、頭を下げられても一円でもお金が足りないならう、売ることが出来ないんです」


 大柄な男はゲーム雑誌を買いに来たのだが金が一円だけ足りずに困っている様子だ。


 ああ、なんで立ち読みをしているのに店員が注意しに来ないかわかった気がする。ワンオペで怖い顔の男が圧掛けてきてたら動けないだろう。


 大柄な男はお金を探すためポケットを必死に探るが一円たりとも出てこない。


 だが彼はどうして引かない、財布を忘れただけなら諦めて帰るはず。そんなに雑誌が大切なのか? 確かにこのコンビニは自分の住む青鵐やこの周辺の街に比べ田舎なのに本の入荷が発売日当日と速い。自分も霰さんに頼まれゲーム雑誌を買いに来たので分かる。


 その様子を遠くで見ながら、レジに置かれたゲーム雑誌に目線をおくると事情を察する。


 まあ、困っているのなら、選択肢は一つ。見た目がどうだの迷う必要はない。


「あの、レジいいですか」


 店員と大柄な男の間に入るようにファッション雑誌をレジに置いた。


「今取り込んでいるんだ、邪魔しないでくれ」


「お金足りないんでしょ。粘っていても店員さんに迷惑かけるだけですよ」


「んだと‼」


 挑発に、いら立ちを見せる大柄な男だったが次の佐一の行為で勢いが止まる。


 それは深ノ宮佐一が、ファッション雑誌と共に持ってきていたゲーム雑誌二冊レジに置いたのだ。


「その雑誌、今月号じゃないです。ゲームに詳しくない貴方にもいろんな事情があり威圧的な態度をとっていることは無理はありません。ですが無理なことをいくら店員でバイト彼に頼んでも一生先に進みません」


 そう言うとぐうも出ない大柄な男に。


「だから自分があなたの分まで買います。この雑誌、自分も買ってきてと頼まれていたのでついでに払いますよ」


 驚きの表情を見せる大柄な男に比べ店員は嬉しそうに。


「あ、ありがとうございます」


 と感謝の意を伝え、圧から解放されるように泣きながらお札を受け取ると急いで商品袋に詰めを佐一に渡す。


 これ以上迷惑が掛からぬよう、見知らぬ大柄な男と共にコンビニを出て、雑誌を袋から取り出し手渡した。


 その行為を見て、大柄な男は勢いよく崩れ、駐車場の真ん中で土下座した。


 あれ、なんかデジャブを感じる。


「本当にありがとうございました‼ 財布を車に忘れ、ポケットに入っていた小銭を拾い集めたのだが足りずに困っていた。これで小指を失わずに済む。君は小指の恩人だ」


「あ、お礼は別にいいですから。邪魔にならない様に立ってください」


 そのその言葉を聞いた大柄な男は勢いよく立ち上がっり泣きながら自分の両手を掴み何度も頭をさげお礼を言うと、雑誌を抱え走ってコンビニから立ち去る。


 その去り際、胸に紋章のついたピンバッチが光り輝くのを見えた。


「……」


 あれだけうるさかったコンビニでの出来事の後の静寂。飲み物を買い、コンビニから出てきた篠崎さんから。


「あの人『小指』がどうとかって言ってたけど関わって大丈夫な人だったの?」


 と尋ねられたのだが。


「多分、大丈夫……なはず」


 色々な疑問を抱えながら自信なく答える佐一であった。


==========


 その後、目的地のショッピングモールまで、何度も寄り道を繰り返し、十一時三十分ごろ、ようやくついた佐一と篠崎。


「いやぁ、楽しいね」


「何処が。ただ喋りながらぶらぶらしてただけじゃないですか」


「それがいいんじゃん。ほら目的地には着いたし。弟君の服を見にレッツゴー」


 どことなく、最初のテンションより上がっている篠崎さんにツッコミを入れようと言葉を発したとき。


「だから、かいま……」


 そこで佐一の言葉が止まる。


 何故、言葉が止まったのか、それは数少ない顔見知りと目が合ってしまったからだ。


「「あっ」」


 言葉がはハモリそこで偶然出会ってしまう。次女の鈴さんと。

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