21 不良に誘われましたが?
お昼、久しぶりにやってきたお気に入りの場所。
ここ最近、親衛隊の方々との交流を深めるため高等部でお弁当を食べていたのでこの場所に来れていなかった。
誰もいない食堂の外の席、いつもの定位置のテーブルに座る。
「いただきます」
お弁当の包みを開け、食べ始める。
わいわいとトークをしながら食べるお弁当もいいのだが、やはり自分は一人静かに景色を見ながら食べるのがあっている。
そう思いながら黙々と食べていると。一人の足音が近づいてくる。
デジャブを感じながら視線をお弁当から上へもっていくと。
「やぁ、隣いいかな」
海老天うどんをトレイにのせた、さわやかなイケメンがいた。
どうもここ最近この場に来ると何故か人に絡まれる。
そんなことを考えながらとぼけた顔で。
「どちらさまでしたっけ?」
名前は憶えているが、今は関わりたくないのであしらおうとするのだが。
「覚えてるくせに~。いいだろ、僕と弟君の仲じゃないか」
ちゃかされたあげく向かいの席に座られた。
この爽やかで目の細いイケメン、鈴さんのグループリーダーであろう人物。名は篠崎 嘉義。
この前木原さん呼び出されて会ったのが最後、この人とはあの後から一切あっていない。
のにも関わらずこの馴れ馴れしさ、コミュ力の高い人だ。
一つため息を付くと。
「何か用ですか」
箸をおき、面倒くさそうな顔をしながら、篠崎さんに顔を向けた。
「重要な用ってことじゃぁないんだけどね」
「じゃあなんで自分のところに? また自分に探りを入れているのだって知っているんですよ」
「探り?」
知らん顔をする篠崎さんに深ノ宮はあきれた様子で後ろを向かず親指で木の上を指差した。
篠崎さんは自分の後ろをのぞき込むように確認すると『プッ』と吹き出し笑い始めた。
木の上にいるのは前に篠崎さんが自分のことを探るために使った人物。自称情報屋の七海さんが全身草まみれの格好でずっと双眼鏡でこちらを除いていた。
「いやぁ、しらないしらない。彼女とはあれ以来あっていないからね」
「そうなんですか?」
どことなく嘘っぽい言い回しをするから少し疑ってしまうが、自分と鈴さんの関係を周りに喋っていないことを考えると篠崎さんの言ってることは本当なんだろうなと理解する。
「じゃあ何で七海さんは自分のことを朝から放課後まで付け回すんでしょうか」
顎に手を置き考える姿を見て。
「怒らせるようなことをしたんじゃない」
うどんをすすりながら篠崎さんはそう言った。
怒らせることなんてしたかな。事業中に会いに行って注意したぐらいなのだが。まぁ今のところがいは無いので頬っておいていいだろう。
そんなことを考えながら箸をとると残りの弁当を食べ始めた。
それから二人の間に会話は無く、無言でご飯を食べ進め。
「ごちそうさまでした」
手を合わせお弁当箱を包み、深ノ宮が席から立とうとしたとき。
「ちょっと待って」
慌てて篠崎さんが呼び止めた。
「なんて言うか、お姉さん以外に弟君って冷たくない?」
「そんなことないです。ただ篠崎さんはあれ以来あったり話したりしてないので自分にとって『知り合い』以前に『他人』って感じなんですよね。しかもイメージは最悪。それに重要な用事じゃないなら別に聞かなくていいかなって」
「うわぁ……バッサリ言うなぁ」
と肩を落としながらへこんでいる。
この人の性格的にこれは自分に同情してもらうための『演技』だと確信しているが。
自分の件、七海さんが何故自分をつけているのかという疑問。篠崎さんが正直に話してくれたため、この人の仕業ではないことが分かり、可能性は一つつぶれた。
疑われることをする方が悪いと思うが、何もしていない篠崎さんを疑ってしまった自分に非が少しだけある。
そう考えた自分は再び椅子に重心をかける。
「少しだけですよ」
「おお。ありがとう弟君」
先ほどまでへこんでいたのに一気に元のテンションに戻る。
「で、重要じゃない用事って何ですか?」
「弟君、今度の休みの日に隣街まで遊びに行かないかい?」
なるほどそれだけか。
「お断りします」
考えもせず速攻で断った。
「どうせ皆さんを連れてきて鈴さんと自分の絡みを見てニヤニヤしたい。ってところでしょう」
「ギクッ」
図星か……と一瞬思ったが何だか反応がわざとらしい。他に本当の目的があるのか?
「ん~だったら他の人は誘わない。弟君と二人でなら? どうかな深ノ宮さんの為にも」
先ほどとは違いふざけた様子ではなく真面目なトーンでこちらに問いかける。
この人、自分が探りを入れて鈴さんの輪の中に関わりを持とうとしていること知ってるな。頻繁に高等部に行って生徒にかかわっていたからそれが原因かな。
もう少し調べてから時間をかけ話しかけに行こうとしていたが、その輪を作るリーダー的存在の篠崎さんから話を持ち掛けてくるとは。
しかも二人だけなら篠崎さんの事はもちろん、鈴さん以外のグループの人のことも聞ける可能性がある。
だがこの人、いったい何が目的なんだ、面白がってるだけ? それならこっちの提案じゃなく最初の提案の方が彼にとって面白さにつながると思うのだが。
自分のことに探りを入れているのなら鈴さんの他にもどうしようもない姉がいること、休みは家事で忙しいとぐらい分かるはず。
ただのデリカシーのない人?
『どうかな深ノ宮さんの為にも』
篠崎さんの放った言葉がずっと頭に引っかかる。
しばらく無言で考える。
考え
考えてみるが
篠崎さんは一度会っただけの『他人』程度。最初の印象、他のクラスメイトの印象でしか自分は彼を知らない。
……答えが出ないものをずっと考えても仕方ない。これを篠崎さんを知るいい機会だということにして一度自分自身を納得させよう。
一つ深呼吸をしてから。
「分かりました」
一言返事を返した。
「お、やったぁ~じゃあさっそくライン交換しようぜ~」
しぶしぶスマホを取り出した佐一の手から篠崎が奪い、ものの三十秒で友達追加し、スマホを返してきた。
本当に何なんだこの人。
そんな会話の後、テンション低めの佐一はラインを交換たスマホを眺めていると『ピコン』とラインに一つ通知が入る。
送り主は霰さん。送られてきた内容は。
『へるぷ』
という三文字だけだった。
佐一は焦った様子で立ち上がると。
「篠崎さん、少し用事が出来たのでこの辺で」
急な態度の変更に少し驚いた様子を見せた篠崎だったが。
「うん、後のことはラインで」
微笑みながら、手を振るう。
深ノ宮 佐一は霰さんがいるであろう中央校舎の保健室へと向かった。
ただ一人テーブルに残された篠崎は。
「……ほんと、弟君は大変だね」
深ノ宮の様子をみてそうつぶやきながらも顔は笑っていた。
…………
一方七海 明野は言うと。
急に走り出した深ノ宮 佐一を双眼鏡で追いかけた際バランスを崩し木から落ちていた。
『いってて……はっ、まさか私の完璧な尾行に気づき、わざと普段とは違う動きを私に見せ計画手に起こしたのでは……あいつ二度も私を木から落とすなんて。絶対に何か弱みを握って、後悔させてやる』
まさに自業自得なのだが変な解釈をして、対抗心をメラメラと燃え上がらせていた。
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