20 親衛隊会員番号0番ですが?
学校、授業の最中。
先生が黒板に書き、何かを喋っているが授業の内容は頭に入ってこない。
ずっとぼーっとしている深ノ宮 楓はずっと別のことを考えていた。
休みが明け、朝の通学路、食料(+洋服)を買うために通学路にいた親衛隊のモブにお金をもらおうと可愛く声をかけるが。
『すいません。渡すことはできないんです……ごめんなさい~‼』
と泣き叫びながら私から走って逃げてゆく。
欲を出してお金をもらおうとするのはまずかったかと頭をすぐに切り替え食糧問題を早急に解決するために、次の親衛隊のモブに声をかけ今度は手を握りながら目を見つめ。
「今日、財布忘れちゃって……お昼、奢ってくれないかな」
といつも以上に可愛いサービスをしながら頼む。
頬を赤らめ動揺しているのを見て内心『完璧だ』と心の中でほくそ笑んで思っていたのだが。
『……ごめんなさい!出来ないんです~‼』
と手を振り払われ同じように泣きながら走り去っていった。
何故か私の言うことを聞かない、こんな事一度もなかったのに。
そんなこんなでここ二日部屋に残っていたお菓子でしのぎ、まともにご飯を食べていない楓。ぼーっとしているうちに学校のチャイムが鳴り授業が終わってお昼に入る。
空腹をこらえ長い授業時間を乗り越えた楓、カバンの中から財布を取り出さし中を見るがお札も無ければ一円たりとも小銭が入っていない。
何でだよ‼ いつもは金も欲しいものもすぐ渡すくせに一体何が起こってんだ。
空腹でイライラするも顔には出さない。学校内では可愛い、可愛い、美少女と周りから思われているからこの顔を崩さず演じ切らなければならない。
落ち着け楓、昨日の夜で部屋に残っていたクラッカーのお菓子も食べつくし、今朝は何も食べていない。なんとしてもこの時間で食料にあり付かなければ後がない。
今朝の様子からして一年では駄目だ、二年で親衛隊を作ったあいつなら。
そう思いふらふらした足取りで、二年の教室に向かい親衛隊のリーダーこと琴吹 巳成に会いに行く。
あいつなら、絶対に逃げたりしない。ちゃんと話しがきく一番従順で動かしやすい私の駒だ。最悪一年と同じように断られたら『金遣いの荒い弟にご飯を食べさせてもらえない』と嘘の事情を話せばあいつならすぐにお金を出すし、下僕も懲らしめられる。
一石二鳥。私ってばやっぱり頭がいい。
そう教室の前で計画を立て、大げさにふらつきながら教室に入り込む。
「琴吹君、実は……あ”?」
目の前の光景に低い自声が自然とでて、ぼーっとしていた頭がフル回転を始めた。
食堂に行っていて琴吹 巳成がいなかったわけではない、教室でモブ親衛隊数人とお昼を囲んで食べていた。
じゃあなぜ驚いたのか、答えは親衛隊の中にこの場にいるはずのない身近な存在がいたからだ。
「なんで……」
な、何故ここにいる、下僕‼
すぐに声に気づいた琴吹さんは立ち上がり。ふらふらしている楓さんに駆け寄っていった。
驚きで叫びたい気持ちを抑えこみ、琴吹さんの手をかりながら壁伝いに立ち上がる。
「大丈夫ですか、楓ちゃん」
「う、うん全然大丈夫……あ、あの、な、何で」
動揺しながら深ノ宮 佐一、下僕に向けている視線で琴吹さんは察したかのように話す。
「あ、実は弟君には親衛隊に入ってもらったんだ」
は?何言ってんだこいつ
「彼はすごいよ今も『ダイエット』している君のことを考え動いている。その行動に感動した僕が彼を誘い、親衛隊皆全員で協力させてもらっているよ」
なるほど理解した。これは昨日も一昨日も一年生親衛隊の行動は偶然じゃない。こいつが動かしていたんだ。
「どうも深ノ宮楓親衛隊館員番号零番、深ノ宮 佐一です」
前に出てきて無表情で親衛隊カードを見せる下僕。
私が親衛隊を使うことを予想して下僕は私が知らないうちに親衛隊リーダーと関わりをもち仲良くなっていた。
私の弟というだけで親衛隊に簡単に入り込める。何故そんな簡単なことに気づかずにいたのか。もっと早く親衛隊に下僕の悪い印象を与えていたら。
後悔してももう遅い。
空腹とイラダチが限界を迎えて表情が崩れそうになる。楓は琴吹を払いのけ教室を走り去る。
「楓ちゃん‼」
琴吹の声は届かない。楓の頭の中は今日も佐一に敗北したことでいっぱいの楓であった。
==========
何も得られず。学校が終わり。空が赤く染まる。
楓は家に帰らずただ一人夕日を見ながら公園のブランコに座っていた。
怒らせたのは私だが、ここまでするか普通。
すねながら体育座りでブランコに乗っていると『きゅ~』っと可愛らしいお腹が鳴る。
帰ってもご飯ないだろうな。お金もないし、食料もないし、どうすっかな。
「何してるの、おねいちゃん?」
声がしたので空から視線を下に戻すと小学生低学年ぐらいの小さな女の子がそこにはいた。
公園だから当たり前か。
「ねぇ、ねえって」
うざいな、がきんちょは早く帰れ。
声をかける少女の手元に目が釘付けになる。
「あ、これ、これね。お兄ちゃんに一つ買ってもらったの」
商店街のコロッケ、いつも下僕が買ってくる肉屋の物。
いいな、食いたいな……って駄目だ、駄目だ、子供に古事記を通すのは私のプライドが許さない。それにカロリーが……。
『きゅ~』
またしても可愛らしいお腹の音が少女の目の前で鳴る。
「お腹、すいてるの」
「……」
楓は顔を真っ赤にしながら。小さくこくんとうなづくと顔を伏せた。
恥ずかしい、しにてぇ、こんな子供に……。
そんな思いで感情がぐちゃぐちゃになっている楓の嗅覚が働き『ハッ』と顔を上げた。
顔を上げると女の子が笑顔で半分になったコロッケをこちらに差し出していた。
「半分あげる。一緒に食べよ」
「……一つしかないのにいいのかよ」
「うん‼」
知らない子がこういっているんだ『いらねぇ‼』とは言えない。
「じゃぁ、もらう。けど返してなんか言うなよ」
「言わないよ」
無邪気な笑顔前には逆らえずコロッケを少女からもらい口に運ぶ。
「……っ」
うまい、約3日ぶりのまともなご飯に、涙がこぼれそうになるが子供の前。真顔だ、自然体をたもて。
がっつきたいがこの味を堪能するために、ゆっくりとかじる。
それをみた子供も私の隣のブランコに座り、小さな口で美味しそうに食べ始める。
だがゆっくり食べてもコロッケは半分、数分もたたないうちに二人とも食べ終えてしまった。
「いつもは夕飯が食べられなくなるからってお兄ちゃんと一緒に半分こにして食べるんだけど今日は急いでるからいらないって。だから今日はどうしようか迷ってたんだ」
「で、何で私に」
「お兄ちゃん『困っている人がいたら助けてあげて』ってまえ言ってたから」
「ふぅ~ん。いいやつなんだなお前の兄貴」
夕日が沈みかけ、暗い電灯が白く光りはじめたタイミングで。子供は慌てた様子でブランコを降りる。
「あ、そろそろかえらなきゃ」
「送ろうか?」
「大丈夫、家近いから」
そう言ってとてとてと効果音がなるかのように小走りで公園の入り口まで走ると一度振り返り。
「またねおねいちゃん」
と笑顔で手を振って帰っていった。
楓もとっさに手を振り返したが、子供が見えなくなると急に恥ずかしくなり手を勢いよくおろす。
「……私とは違っていい兄貴だな」
私も……佐一にあんな風に。
って私はそんな奴甘い奴じゃねぇよ、性格は一瞬で変わるか馬鹿が。つうかなんで下僕に頭下げなきゃいけねぇんだよ。負けねぇ。ぜってい私の下僕に戻す。
空腹とイライラから少し解放された楓は決意を固めると同時に。
「ってあれ、あの晩、下僕の耳に何か……」
記憶に何か引っかかりを感じ始めていた。
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