17 遊びをしますか?

 霧雨さんと二人、これ以上自分に気を使ってほしくないため話しかけず、個人でのんびりしていると勢いよく教室の扉が開く。


「う~す~十香っち。あ、弟君も来てくれたんだ」


「あ、佐一~」


 廊下から佐久田さんと椿さんが教室に入ってきた瞬間、椿さんは座っている自分に抱き着いてきた。


「こんにちは、佐久田さん、椿さん」


「ネタ切れという根本的なものを解決してませんからね……椿さんその体制で抱き着いて辛くないですか?」


「ん? 全然」


「あやおや今日も仲良しだね~」


 にやにやしながら、自分の席に座る佐久田。


 椿さんにはいつものように何とか理由を話し、拘束を解いてもらった。


「よ~し、皆の物。遊びのネタを持ってきて……」


「ちょっと待ってください」


 佐久田さんの始まりの合図で有ろう言葉を遮り、自分が割って話に入る。


「これ以上話しても多分先には進まないと思うので今回だけこの件は自分が進行していいですか?」


「お、おう……別にいいけどぅ……」


 口をとがらせ少ししょんぼりする佐久田さんに申し訳なさが心の中に芽生えるがぐっとこらえる。


 佐久田さんに進行を任せると昨日のように、考えるだけで一日が終わってしまう。時間をかけゆっくりしたいことを考え行動に移るというのはいいこととは思うのだが、こちらには一年間と猶予がない。


 自分勝手な理由だが、椿さんのためこの件は早めに終わらせた方がいいと判断した。


「これ以上話し合っても先に進まないと言いましたが何故だと思いますか?」


「う~む~」


 佐久田さんは腕を組み必死に考えるも爆発音とともに机に倒れこむ。


 霧雨さんは分かっているようだが、あえて口に出さない。まだ二人にあまり心を開けていない部分がある無理もないか。


「何で?」


 椿さんは……分からなくて当然だろう。


「簡単な話、三人の方向性の違いです」


 椿さんがかかわるとこから佐久田さんと霧雨さんのことはある程度調べていた。


「あ~なるほど」


「佐久田さん、好きなものは?」


「うむ、よくぞ聞いてくれた、スポーツ関連、主に野球。あとは、軽ーく漫画読んだり、お笑いのテレビ見てるかな」


「霧雨さんは?」


「私は……小説を主に呼んでます。ジャンルは普通の学園ものからSFぽいのまで基本的に何でも読みます……他にはネットとかで洋服を見るのが好き……です」


「椿さんはいいです」


「なんでぇ‼」


 椿さんは自分探しの真っ最中、やりたいこと、してみたいことがまだわかっていない状態。今聞くのはご法度だろう。


「要するにアウトドア派、インドア派、不明物体とバラバラな思考を持った状況でいくら話し合っても結果は出ません。自分がいなかった一週間、雑談などされてたようですが、話は弾みましたか?」


「ギクッ……」


 佐久田さんのドキッとした表現を見た自分は、話が弾むというより佐久田さんや椿さんが一方的に話していた様子が頭に浮かぶ。


「……ごめんな十香っち。うちらだけでなんか盛り上がっちゃって」


「え、いや、全然悪くないです。むしろ話を聞いてて楽しかったですし……」


 表情から察するに霧雨さんが言うことは嘘と本当が混じっているだろうなニ割ぐらい理解できて残りの八割は分からない球団の話や芸人の話だろう。


 だが霧雨さんが毎日この場に来ているということは、椿さんと同じで楽しもうとしていることが分かる。佐久田さんにもらったつながりをなくさないために。


「そこで、まずお互いを知るために離すのではなく行動を移しましょう」


「行動って?」


 佐久田さんの問いに対し、自分はカバンからある物を取り出す。


「それって……グローブ?」


 今回は佐久田さんに合わせるものを持ってきた。


「はい、野球のグローブです。皆さんで、キャッチボールしませんか?」


==========


 自分は青春部(仮)を引き連れとある場所へと足を運んだ。


「うっほ~ひっれ~」


 部活で使っているので学校のグラウンドは使えない。


 この街にある数少ない公園を使うにも高校生が使うとなるとやや気が引ける。小さな子供たちが遊びにくくなるからな。


 そこで、学校の裏から森に入り、道なき道を少し歩いたところにある広場を使うことにした。


「森の中にこんなところがあったんだ」


 自分以外にここの管理人と鈴さんしか知らないこの場所なら好きに使っていいだろう。人間の出入りがないせいで多少草が生えすぎてて歩きにくいがキャッチボールするだけならまあなんとかなるだろう。


「とりあえず二人一組でやりましょう。あまりやったことない霧雨さんは自分と、ある程度できる椿さん佐久田さんで」


 佐久田さんと椿さんの二人に右利き用のグローブとボールを渡した。


「野球見るのは好きだったけど。実際ボールに触れる機会ってあんまなかったからな。できっかな」


 佐久田さんはそうつぶやきながら、ボールを真上に放りながら少しワクワクした様子で距離を取る。


 だが椿さんは少し乗り気ではない様子だ。


 それはそうだろう。女子野球部であんなことがあった後だからな。ま、こうなることを予想して自分からキャッチボールを提案したのだが。


「あ、あの、キャッチボール。やったことなくて……それに……私……運動音痴で、うまく投げられるか……」


 向こうも気になるが、無理に付き合わせてしまっている霧雨さんには申し訳ない。こっちはこっちでちゃんとしなきゃ。


 さて、どうなるかな。

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