15 ネタ切れですが?

 休み明けの登校日。休み、学校と日常の変化に対応できている自分は何ともないのだが若干一名お休みスイッチを切り替えられない人物。ゲームで徹夜したであろう深ノ宮 霰を今度は遅刻させないよう強制的に着替えさせ、寝ぼけたままの霰さんを担ぎ、予鈴5分前に学校に着くこと出来た。


 寝ぼけた霰さんを教室まで送り、中等部まで戻ろうとする自分に背後から何者かに抱き着かれる。まあ検討はついているのだが。


「椿さん、ここは高等部でも一年の教室前ですよ」


「知ってるよ~」


 抱き着いてくるってことは青春部(仮)の中で何かあったのか?


 でも今からは授業があるし、昼休みも少ししか時間がない。となると放課後か。


 冷蔵庫にまだ食料があったはず。自分の食べる量を減らせばなんとかなるか。


「放課後、あの教室に行きます。それでいいですか」


「ん。分かった~」


「……」


「……」


「とりあえず、恥ずかしいので放してもらっていいですか?」


「あ、ごめん」


 生徒の視線の中、放課後の約束を取り付け授業が始まるギリギリで教室に戻るのであった。



==========



 放課後、中央校舎にやってきた佐一はの元空き教室の前に立つ。


 そこにはA4の白い紙に青春部(非公認)と書かれた紙がはってあるためここで間違いないだろう。


 一応の扉を二回ノックし扉を開ける。


 教室には机にうなだれた佐久田さんと椅子に座りそわそわして落ち着きのない霧雨さんがいた。


 あれ、椿さんまだ来てないのか?


 と油断していると後ろから急に抱き着かれた。


「こんにちは~」


「……こんにちは。とりあえず状況を知りたいので離してもらっていいですか?」


 今教室に着いたであろう椿さんに急に抱き着かれ一瞬ビックリした自分だが冷静に対応し離してもらうことが出来た。


「こ、こんにちは。し、深ノ宮さん。佐一君」


「……おっす、椿っち。弟君も来たのか」


 椿さんはいつも座っているであろう席に着き、自分は教室の後ろに積んである椅子を持ってきて座る。


 ため息交じりに返事を返す佐久田さん。やはり何かあったのだろうか。


「椿さんに呼ばれてきたんですが、どうかしたんですか?」


 そう聞くと佐久田さんはむくりと体を起こし頭を抱えながら。


「あああああああぁ、遊びのネタがないよおおおおおおおおおおおおおお」


 大声で発狂した。


 ……帰ろっかな。買い出しに行きたいし。


「この街遊び場が無くて、放課後も時間ないからお喋りしてたけどもうトークテーマないよ。毎日しりとりぐらいしかできないよ」


「な、なるほどです」


 確かにこの街には何もない。ある物と言えば街中のデパートと海ぐらいなのだが。この街のデパートに今時の女子高生の興味を引くものがあるのかと聞かれれば首を横に振る。


 海に至っては今の季節に入る人はほとんどいない。


 隣り街に行けばかなりの選択肢が増えるのだが、放課後の時間帯では行き来できないであろう。遊びのネタが尽きるのも納得はできる。


 それに……。


「佐久田さんと霧雨さんは前から知り合い、一週間程度で話のネタが尽きるのも納得……」


「え、うちと十香っちはあの日初めて話したよ」


「あ、すみません声にでて……え?」


 今衝撃の一言効かされたぞ。


 二人は前からの知り合いでこの部を設立したと思っていたのだがまさか椿さんと同じ日に知り合って部に誘ったってこと!?


 コミュ力、行動力供にありすぎだろ。だから霧雨さんは今もこの場の雰囲気に馴れずにそわそわしていたのか。


「凄いですね」


「ん?何が?」


 本人は気づいていないのか……逆にこの一週間ほぼ初対面で何を話して過ごしていたのか逆に気になる。


「ネタが尽きるまで何を話していたんですか?」


「う~ん。毎日ほぼ同じで弟君の話かな」


「弟……お二人にも弟さんいらっしゃったんですね」


「いや、違う違う。私たち二人とも一人っ子。弟って君の事だよ」


 自分?こんな自分のことで話が広がるのだろうか。


「深ノ宮さん、佐一君の事を楽しそうに喋るからそのことを聞いてると楽しくて」


 さっきまで沈黙を貫いていた霧雨さんがほがらかに喋りに入り始めた。


「そうそう、椿っちが『佐一ってすごいんだよ』って毎日。でも、その話の内容が毎回違って面白くて飽きないんだよね~」


 ちょっと恥ずかしいが、話のネタになったのならまあいい……のか?


 それよりも自分の話で面白いエピソードなんてあったかな。


「椿さんがどんな話をしたんですか?」


「うちらもそのことを君に話をしたかったとこ。まず『佐一は私より勉強ができる』って本当?」


 ……ああ、そういう感じか。


「……自分は普通ですよ。前のテストの成績、下から数えた方が早いぐらいです」


「……『佐一は私より運動神経がいい』って話は?」


「ぼちぼちですかね、前はよかったと自分でも認識していますが、今の椿さんには到底かないません」


「『佐一は世界一料理がうまい』は?」


「一般的な料理はできますが、世界一かと言われると全然ですかね」


「「……」」


 ……少し空気を悪くしたか。あんまり触れられたくない話題だったから少し冷たく返し過ぎた。


 もっと冗談交じりに明るく話すべきだったか……。


「「ぷっ」」


 そんな後悔を一人頭の中でしていると突然二人は笑い出した。


「大丈夫。椿っちの話は半分冗談だって分かってるから。落ち込むなよ弟君。冗談でも椿っちは君のことを持ち上げて喋る。そのことで一つ分かることは椿っちが弟君のことを好んでいるというのに私たちはニヤニヤが止まらんくてねぇ~。ね~十香っち」


「う、うん。佐一君の作ったお弁当を深ノ宮さんに少し分けてもらって食べたけど美味しかったし料理が出来るだけでもすごいよ。私なんてお米を炊くことすら……」


 霧雨さんが少しネガティブな雰囲気になりそうだったため、場をリセットするかの如くコホンと佐久田は咳払いすると。


「……話って面白ければ冗談でも真実でも問題ないのだよ」


 とその話に締めくくりをつけた。


「全部本当の話なんだってば!」


「はいはい、椿っちは弟君思いで可愛いな~」


 顔を膨らませ、反論する椿さんに逆に抱き着き頭を撫でる佐久田さん。


 その佐久田んさんの目に壁掛け時計が目に止まる。


「ってもうこんな時間。今日も弟君の話で終わっちゃったな」


「私も戻ります。遅くなると母が心配するので」


「ん、次回は話でも遊びでも各々何か考えてくるように。解散」


 と言いながらも四人で学校の門の前まで付き添い、別れを告げ椿さんとともに家に帰る。


 今日は何もできなかったなだけど状況は分かった。知り合いから、仲良し程度。まだ友達とまではいっていない全員の趣味が把握できていない状態。


 このままだと次回も話すだけで終わってしまうだろう。本人たちが満足するならそれでもいいのだが佐久田さんは何かやりたそうだ。


 この状況を変えるために何か考えておくか。


 あと椿さんにははっきりと言っておかなければならないことがある。


「椿さん」


「ん?何佐一」


「自分の『過去』の話はもうしないでください」


「え、でも二人は楽しそうに……」


「お願いします」


 少し悲しそうに微笑みながらそれ以上何も言わない佐一を見て椿は言葉を慎み、その後家に着くまで会話は無かった。

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