14 早朝の攻防戦ですが?
……今、何時だ。
深ノ宮 楓はいつもは感じることのない激しい空腹により目を覚ます。
スマホを片手に時間を確認すと朝六時ぴったり。いつもなら二度寝する時間なのだが。
「……」
一時間おきに目が覚めている状態では眠るに眠れない。
眠気と空腹でふらふらしながら起き上がると自分の部屋を出てリビングに向かった。
リビングにはすでに明かりがついており、下僕が庭でせっせと花壇の水やりをしている。
だが今の楓にはそんなことはどうでもよかった。とにかく食べるものを探すため台所に行き冷蔵庫を開ける。
昨日の残り物が残っていないか冷蔵庫を見るが出来合いものは何も置いていない。入っている物といえば野菜と半分以上減ったミンチ肉。それから霰のであろうお菓子。
その冷蔵庫の中を見て強く叩きつけるように閉め、その後棚を隈なく開ける。
カップ麺豚骨、bigヌードル豚骨風味、本格こってり豚骨ラーメン大。
……あほか。
昨晩出された非常食。基本的に霰しかこの類のものは食べないので霰の好みに合わせ買われている物。カロリーを見るまでもなく棚に投げつけるように戻す。
霰のやつ運動してないのにあの体系でカロリーが全部胸に行くかんな……ムカつくやつ。
それは置いといてどうしよ、料理したくないし、カップ麺も食べたくない。そうなると食べ物がない。
簡単に下僕を言いくるめられると思って昨晩までは余裕だったが、下僕を怒らせ『長男』という言葉が聞かない今の状況打つ手がない。
そう思っていたが視線を移した先にある物を見つけ表情がに笑みがこぼれるほど内心ほくそ笑む。
いつも食卓を囲んでいるテーブルに置かれた財布、それは下僕の物だった。
「所詮中坊、馬鹿な奴だな……」
財布からお金を抜きコンビニに行って飯にありつく。
空腹でそのことだけが楓の頭の中を支配し昨日の出来事なんか忘れて財布に手を伸ばす。
そして財布のお札が入る場所から勢いよく紙を抜き取った。
『ハズレ』
出てきたのは千円でも五千円でも一万円でもなく、お札の形の紙にハズレと一文字書かれたものを楓はつかみ取った。
「……」
片手で握りつぶし小さく丸めて怒りに身を任せ、思いっきり壁に向かって投げつける楓だが壁にぶつかる前に人間にこつんとぶつかり丸められた紙は地面に落ちる。
「まだ反省してないようですね」
さっきまで庭にいた下僕がリビングの中に戻ってきていた。
だが見つかったからこの場を乗り切るために何とかしようではなく、楓は落ち着いた様子で財布の中を探り続ける。
下僕がこうなることを予測して見つかったならもういい、こんな子供じみた仕掛けでこっちを怒らせて判断を迷わせるのが狙いのはず。さっさと財布から小銭でもカードでも抜き取って家から逃げてやる。
そう思いながら財布を中をあさるが。
『ここにはないよ』
『残念次はお金かも』
『おしい、もう一枚』
『カードだと思った?』
的屋のハズレくじのような煽りの一言が書かれた紙きれしか入っていない。
「……ッ‼」
財布を床にたたきつける。
「ハズレ以外の言葉は全部霰さんに考えてもらいました」
「だろうな‼」
絶対あいつしばく。
「いいかげん意地を張るのをやめて、カップ麺でも作って食べればいいじゃないですか。一回食べたぐらいじゃ太りませんし」
お金やカード類を移したであろう古い財布を見せながらこちらに語り掛けてくるが、顔をそむける。
「絶対に嫌。あの食べ物を食べない理由はカロリー以外もあんの」
「そうですか……じゃあ仕方ないですね」
そう言って何事もなかったかのように部屋の掃除を始めた。
「用が無いならリビングの真ん中で立ち尽くさないでください、掃除が出来ません」
お金も盗めない、自分も下僕も料理を作る気はない。食べられそうなものはカップ麺と野菜のみ……。
まあいい今は考えるのはよそう、一日や二日食べなくても学校が始まれば親衛隊の皆に頼んでご飯を集めれば……
『きゅ~ッ』
下僕が音の鳴ったこちらを見る。
きゅ~と腹黒な彼女から考えられないほど可愛らしいお腹の鳴る音を鳴らし頬を赤く染めていた。
「……何だよ、何見てんだよ」
「別に」
「今の音はスマホのアラーム音だからな‼」
「いや、何も聞いてませんし」
くそっ……恥ずかしい思いさせやがって。
顔を赤く染めた楓は言葉を言い残しリビングからそそくさと自分の部屋に戻ろうとするが。
「待ってください」
下僕がその行為を呼び止めた。
「そのプライドを早く捨てないと、飢え死にしますよ」
そう昨日の鈴のように冷たく言い残し下僕はせっせと動き始めた。
「絶対に嫌だね。下僕を従わせて楽してご飯にあり付く」
奥歯を強く噛みしめながら中指を立て、強く言い放つ。
そんなことを言うためだけに呼び止めたのかよ……腹立つ。腹立つ。クソッ。
イライラしているだけじゃこの状況は変わらないと分かっているものの、今の状態では考えがまとまらないと悟った楓は怒りを抑えすんなりと自室に戻るのであった。
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