6 決意を固めますか?

 夕方、学校が終わり、帰り道に商店街に向かう。


「はい、全部で千百四十六円。いつもうちで野菜を買ってくれる佐一君にはミカンと四十六円はおまけしたげる。千百円でいいよ」


「ありがとうございます」


 八百屋のおじさんにお金を渡すと野菜を受け取りマイバックに入れる。


「重くないかい?」


 五人分の野菜と肉屋で買ったパンパンのマイバックを見て心配そうに尋ねる。


「大丈夫です」


 軽々と持ち上げ、軽く一礼してその場を後にする。


 この街にもショッピングモールが出来た。自分の通う学校を除けば一番大きい建物。その中にある店舗はすごく安い。


 割引は聞くし、買えば買うほどポイントは貯まる。


 夕日が沈みかけ、電灯に明かりがともる。


 その明かりに照らされるものはしまったシャッターばかり。閉店したお店の数々。


 ショッピングモールでも構わない。だが昔から通うここの雰囲気が好きだから商店街で買える物はなるべく買うようにしている。優しい商店街の人たちがずっとお店が続けられるように。


==========


「ただいま」


 二階建ての一軒家、台所付きリビングに部屋が四つとトイレ二つにお風呂と少し大きいが五人で暮らすには少し狭いそんな自分の家に帰って来る。


「おっ帰り~」


 出迎えてくれたのは長女の椿さん。いきなり抱き着くようなことはない。


 あの問題の答えを聞きに出迎えてくれたのか? と思ったが抱き着かれないのを見てただ単に出迎えてくれたようだ。


「少し持とうか?」


「重たいので大丈夫ですよ。一時間後皆さんを呼んできてくれませんか?」


「わかった~」


 椿さんはそう言って一階の自分の部屋にもどる。


 さて、立っている場合じゃないな。夕ご飯作らないと。


 リビングに向かった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 一年前のクリスマス、父はプレゼントを持って帰って来た。


 クリスマスになるといつも父はこの家に帰って来る。だから自分はこの日が嫌いだ。


 プレゼントをもらい喜ぶ四人に対し自分深ノ宮佐一は嫌いな父に呼ばれて外に出ていた。


 一人だけ特別なプレゼントをもらえるなんて考えていない。自分はクリスマスプレゼントをもらったことがないのだから。


 だが父は放たれた言葉は想像とは違った。


「家の全てはお前に任せる。家や資産もお前名義で全部やる。あいつらのこと頼むわ」


 初めてのクリスマスプレゼント。なんて最悪のプレゼントなのだろうか。


『お前名義』と言う言葉が引っかかり嬉しいではなく怒りが先に走った。姉ではなく自分一人に託すのかと。


 悔しくて、悔しくて、黙っていられない。


「五等分だ……しっかり、五人の名前を書いて渡すなら渡せ」


「問題だらけのあいつらに渡すとロクな使い道しないぜ。その点お前なら考えて使って見せるだろ? お前がもらってから分あたえればいいじゃん」


 そう言う問題じゃない、父親自身が育てた姉達のことを信用していないことが腹が立つ。


 自分に家のことを押し付け、家族の問題を知らん顔して逃げる気でいるこいつに怒りがわく。


 だったらどうする、このまま何も言わずにもらうか? 絶対にない、自分の答えはでている。


「一年間だけ待ってください。あなたが信頼できる姉さんにして見せる」


 時間を稼げれば何でもいい、父親が信頼できるよう彼女たちが変われば自分の要求を呑んでくれるかもしれない。


「一年? そんな短期間であいつらが変われるわけない。まあ来年が家に戻って来る最後だからちょうどいいか」


 煙草をふかしながらがっはっはと笑う。


「まぁ楽しみにしてるわ。頑張れ『長男』」


 悪気のない父親。ああ、やっぱりこの人は自分は大嫌いだ。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「よしできた」


 砂糖と醤油と七味唐辛子で肉と野菜を甘辛く炒めたもの。ご飯とみそ汁を人数分テーブルに用意していた。


 一時間、そろそろだな。


「止めろ~離せ~僕はKOFで忙し~んだ~」


「だ~め、ご飯の時間だからはなさいよ」


 二階から降りてきたのは椿さんと霰さんの二人だけ。


 やはり鈴さんと楓さんは来ないか。二人分の食事にはラップをかけて置いておこう。


 食卓を囲むなんて嫌な人は嫌だろうし強制はしない、霰さんは別だけど。


 椿さんには霰さんを強制的に連れてくるよう日頃から言っている。呼ばないと霰さんスナック菓子でお腹を満たしてしまうから。


「もどる~」


 と駄々をこねる霰さんに秘密兵器を見せる


「霰さんこれ」


「PCエンジンGT、あの女の先生に没収されたかと……」


 と学校で回収していたゲーム機を見せると飛びついてきて奪い取ろうとするがその手をかわす。


「ご飯食べたら返しますね」


「む~分かったよ!」


 椿さんと霰さんが席に座り手を合わせる。


「「いただきます」」


 椿さんと自分は丁寧に。


「いただきます……ガツガツ、ムシャムシャ」


 霰さんはゲーム機を取り戻すため勢いよく食べ始めた。


 大丈夫、焦る必要はない。


 自分はこの一年で姉達を父親に信頼のおける人間に変えて見せる。


 絶対に認めさせて見せるから。母さん。

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