3 次女はギャルですが?

 ようやくついた。なんだかかなり時間がかかった気がする。


 時乃三谷学園中等部校舎と高等部校舎の間にある、両生徒が使える施設が整う中央校舎。


 その中央校舎、端の施設の一つにかなり大きな食堂がある。


 この食堂を利用する生徒の八割以上は高等部の生徒であり、談笑する場とも使われ昼時間賑わいを見せている。


 自分は弁当持参してるからこの食堂は利用しない。用があるのはこの先だ。


 食堂に一歩入るや否や大きな声が耳を貫く。


 キーンと耳鳴りが鳴りやまぬ間に声のした方向に顔をやる。


 食券販売機が四台ある場所だろうか、四列綺麗に並べられた券売機の中心にガラの悪そうな四人の高等部の生徒がその場所で談笑していた。


「今日はどれにすっかな~やっぱ肉メインのB定食か? 肉マシマシご飯大盛りでガツンと食べるかな~」


「ちょっとそれ、前頼んだ時に全く食べれてなかったじゃん。それに最近遊びまくってんのにそんなに食えるお金あんの?」


「そうだった、そうだった。今月ピンチで半ライスと卵一つぐらいしか買えねえや」


「「ハハハハハハ」」


 うるさい原因はあれか。どこにでもいるもんだなあんなの。


 邪魔になってるんだろうなと、券売機から少し距離を置いて周りを囲んでいる生徒を遠目にみて思う。


「そんでさ」


 まだ続くのかよ。


 あの生徒の話は当分の間続きそうだな。昼を食べられない生徒は災難だが弁当の自分には関係ない。


「あははっ……」


 彼女が目につくまでは。


 足を止め、券売機のギャラリーの隙間から彼女を眺める。


 他の生徒の邪魔になっているガラの悪い集団、男子生徒二人、女子生徒二人の中にたった一人だけ本気で笑っていない人物がそこにいる。


 傍から見れば同じに見えるだろうが自分は全く違って彼女が浮いて見える。


 ダークブロンドのロングな髪、毛先がワンカールしている彼女、時乃三谷学園高等部二年 深ノ宮 鈴。自分の姉にして次女にあたる存在。


 表面では制服を着崩し周りに合わせているし、とげとげしている性格に見えるが、内面はモフモフ大好き、明るくて優しい女の子なんだよな。表面でも内面でも口は悪いけど。


 こうなった原因は大体予想はつく。その原因に自分がかかわっていることも。


 別に鈴さんが誰とつるもうが喋ろうが別にどうでもいい。問題なのは鈴さんが周りに迷惑をかけること。それは見逃せない。


 だから自分は動く、近場のテーブルに弁当を置き、周りのギャラリーを押しのけ券売機へ足を進める。


「でさ、今度の日曜日……あ?」


 鈴さんと同じ高等部二年、緑色でⅡと書かれたバッジを肩に付けた男子生徒が近づく自分を見て喋りを止めた。


 自分はガラの悪い生徒の顔を順番に眺め、ピタッと最後、鈴さんの顔を見て睨みつけると一言放つ。


「邪魔」


 その一言を放った途端、辺りは静まり返り空気が冷えるのを感じる。


 男子生徒が頭に来たのか少しイラっとした表情をしてみせ、こちらに何かを言おうと口を開こうとした直前、鈴さんはそれを消すように大きな声で話し出す。


「は? 何言ってんの?」


 乗ってきた。


「食券を買うのに邪魔だと言ったまで、事実を口に出したまでだ」


 家族だ、言い合うことなんて訳もない。鈴さんも同じ考えだろう。


「何、その口の利き方。うちら先輩なんですけど」


「この状況で先輩後輩関係ありますか?」


 周りの生徒を視線で刺し状況を理解させる。


「皆、貴方たちがここをどくのを待ってますよ。どかないならどうしますか? 担任でも呼びます? 食堂の人でも構いませんけど、面倒なことになるかも」


 鈴さんが周りを見て一息つくと。


「……チッ、うざ」


 舌打ちと一言残し食堂をスタスタと後にする。


 周りにいたガラの悪い男子生徒も自分の一言に冷静さを取り戻したのか急いで食券を買いカウンターへ向かう。 


「ふっ……あ、待ってよ~鈴っち~」


 残された水色でショーカットの少し派手な女子生徒は自分を強く睨みつけた後、鈴さんを追って食堂を出て行った。


「ふぅ」


 これでいい。いや、これじゃなきゃ駄目だ。


 鈴さんが周りに迷惑をかけているのは見逃せない、あのまま続いていたら彼女が傷つくことになっていただろうから。


「ん?」


 一人になった自分、いつの間にか周りの視線が自分だけに集中していた。


 あ、あれだけ言ったんだからなんか買わなきゃな。


 少し考えた後、一番安い半ライスと卵の食券を買い、弁当を回収しに向かった。

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