第33話 ミスティア、ヴィルフィールのことを想う。

ミスティアは暇であることが大嫌いだ。退屈であることも嫌いだ。

暇にならないようにずっと生きてきた。

退屈にならないようにずっと生きてきた。

だが、いつかの時に知った。この世で一番面白いのは人間であると。


だから、ミスティアは愚かで滑稽な人間を見ると、思わず笑ってしまうのだ。



「ええ。いいですよ」



浮かべていた笑みを消し、ミスティアは第二王子レンドールについてゆく。

第二王子は見た目は第一王子に似ているが、中身が全く違う。

この第二王子は国の民のことを全く考えていない。だが、あの第一王子はこの国の民のことを常に考え、最善を尽くしている。

第一王子は王としての資質もあった。そのため、おそらく王太子には第一王子が選ばれるだろう。

第二王子は兄を追い越したい一心でミスティアに手を組まないかと聞きにきたのだ。ミスティアの力を使えば、王にでもなれる。


第二王子は、7賢者の全体の中が悪いとでも思っているのだろうか。

だから、序列四位のミスティアに声をかけたのかもしれない。

ミスティアも序列一位になりたいと思っているのかもしれない。



だが、それは間違いだ。



忘れてはいけないが、7賢者と人間の思考回路は全くと言っていいほど違う。

ミスティアも昔は兄によくやっかまれたが、今は仲が良い。

理由は簡単。諦めたのだ。ただそれだけ。

ミスティアの兄はミスティアに勝ちたかった。でも、ミスティアは賢者だから人間では太刀打ちできない。

だから、ミスティアに歯向かうことをやめたのだ。だが、ミスティアに反抗しなくとも、ミスティアを利用しようとはしているので、人間の中では賢しい方だろうとミスティアは思っている。

それがミスティアにとっての暇つぶしになれば、それでいいのだ。


ヴィルフィールと一緒にいるのは、ヴィルフィールが面白いものを見せてくれるからであり、それがとても楽しいから。

一番の理由は、自らのつがいを優先するのが当たり前だからだ。

ミスティアはとうの昔から、ヴィルフィールが自分の愛する人だと知っていたからだ。つがいであり、ミスティアの初恋の人。

そう。ミスティアには、ヴィルフィールのためという行動原理が成り立っているのだから。


「スロウス女公爵閣下、あなたはあのグリード公爵閣下とどのような関係で?」

「ああ、ですわ」

「そ、そうなんですね…」


きっとこの会話を聞いているヴィルフィールは、とても怒っているだろう。

ミスティアから友達と言われたのだから。

そんな様が容易に想像できて、思わず笑ってしまう。


(もっと、もっと、私に怒っていいよ。……そうしたら、無理矢理にでも抱いてくれるでしょう?…そして私を、で縛ってよ)


ミスティアはヴィルフィールに愛されている自分を想像してうっとりと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る