第32話 ミスティア、悪い笑みをうかべる。

全く面白くない夜会の途中、ミスティアはやはりケーキを食べていた。たまにフルーツなども食べているが、それとこれとは別だ。

美味しいものは絶対に食べるというのがミスティアの信条なのだ。

そうしてミスティアが本来の目的を忘れかけていた時だった。


「ミスティア、少し離れますが、このテーブルから離れないでくださいね」

「……分かったわ」


ヴィルフィールが少し離れると言った瞬間、ミスティアはこの夜会に参加した理由を思い出した。

すぐさまヴィルフィールの意図を汲み取り、ミスティアは頷く。

そして、時は動き出す。


––––––––つまらないまま劇が終わりフィナーレを迎えるなんて、そんなの私が許さないわ。


ミスティアは笑う。このまま終わりにはさせないと。このまま逃げさせはしないと。

その笑みは残虐な光を含み、同時に玩具遊び相手を見つけたと言わんばかりの微笑みだった。



–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––




ミスティアは唐突だが庭園に行くことにした。

なぜ庭園なのかといえば、庭園に行けばおそらく第二王子が接触を図ってくるだろうということだかららしい。そのため、ミスティアは第二王子の話に乗ったふりをし、内側から第二王子という人間を破滅させることが目的だ。


「はあ、どうしてこういう庭園とか中庭とかには魔法の花がないのか。あれらは人を喰ったり人を惑わしたりするけど薬の材料になるし綺麗だからいいのに」


ミスティアはそんな物騒なことを考えつつ、ミスティアは花を見つめる。そうして時間を潰していると、後ろから声をかけられた。




「スロウス女公爵閣下。ここに何か、御用でしょうか」




ミスティアが振り返ると、そこには金髪碧眼の男が立っていた。

全く見覚えがないため、誰だろうかと思っていたが、そんなことは関係がない。


「あら、私を知っているの?でもやっぱり自己紹介は大事よね……怠惰の賢者、ミスティア・スロウスよ。公爵位を賜っているわ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします。スロウス女公爵閣下。…ああ、そちらが名乗ったのですから、私も名乗らなければなりませんね」


そう言って、その男はこういった。



「私の名前はレンドール。この国の第二王子です。…少し、お話をよろしいですか?」


(かかった)



ミスティアは悪い顔をして笑った。

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