第31話 ヴィルフィールの心情

ミスティアはケーキを貪っていた。ひたすらケーキを食べている。

その様子を見てヴィルフィールは少し引いているかと思いきや、彼は全く気にせずにミスティアにケーキを与え続けている。

まるでミスティアと誰かが踊ることがないようにするためのようにも見える。


「ムグムグ。そう、いえば。ムグムグ。あ、これ美味しい。ヴィルは、なんの種族なの?ごっくん。絶対に人間ではないでしょう?」

「まあ、そうですね。人間ではありません。でも今は気にしなくていいんですよ。ミスティアはね」

「ええー?まあ、いいけどさ」


ミスティアはやはりケーキを食べている。それだけお腹が空いていたのだろうか。ヴィルフィールはミスティアにケーキを食べさせながら思った。


「グリード公爵閣下、私と踊ってくださいませんか!?」


ミスティアにケーキを食べさせている間に誰かが自分に声をかけてきた。

それは伯爵家の令嬢だったようだ。ヴィルフィールはその冷たい美貌で令嬢を見下ろす。そして、断ろうとしたところに隣から声がした。


「ごめんなさいね。ヴィルは私以外の人と踊らないの」


そう言ったミスティアの声音は普段の透き通る鈴の音ような声だが、艶やかで大人の色気も纏っていた。そんな不意打ちに不覚にもぞくっとしてしまった。

やはり、彼女は自分のつがいだ。こんなにも惹かれるのは、魅せられるのは、彼女を除いて他にはいないだろう。

だが、それゆえにミスティアに拒まれたらと考えてしまう。


(私はですから、ミスティアを絶対に逃しません。が、こんなにも臆病になるとは思わなかった)


ヴィルフィールは今も呑気にケーキを頬張っているミスティアを見る。

こんなにも自分は恋焦がれているのに、彼女は全く自分を意識などしてくれない上、ただの悪友としか思われていないのだ。

やはり、ここからはもっと本気で行かねばならないだろう。

ヴィルフィールは知らずのうちに、ペロリと舌舐めずりをする。

ミスティアが自分に恋するところまで持っていくためにあらゆる手を使ってでも溺れさせて見せよう。

そう、考えていた。

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