第29話 ミスティア、ヴィルフィールと談笑する

ヴィルフィールはダンスもエスコートも上手い。

ミスティアはダンスが苦手というわけではないが、ヴィルフィールは普通に上手い。

何だか負けたような感じして悔しい。


「そういえば、この夜会で第二王子が何か動きを見せないかなって思ったけど、結局ここにいたら意味ないわよね」

「いえ、闇精霊が見て回っているので怪しい動きが見えたらすぐに私がわかりますから」

「へえ、そうだったのね。って、いつの間に?」

「忘れてしまいました」

「うぇ!?」


ヴィルフィールが何かを忘れるところを見たことがなかったためミスティアは驚いた。

だが、すぐに興味を失ったため話題を変える。


「ヴィル、何でそんなにダンス上手いの……?」

「まあ、慣れですかね。ミスティアは壁の花と化していましたが、私たち7賢者は基本目立つので、何人かの令嬢と踊らなければならなかったんですよ。あの時は本当に面倒でした」


遠い目をしているので、よっぽどだったのだろう。

ミスティアは密かにヴィルフィールを憐れんだ。だが、やっぱりこいつのことだから大丈夫かと思った。


ミスティアは、話を変えながら踊る。

楽しそうに、優雅に、見ているものを虜にするように。

魅了の力を使って踊る。


「ヴィル、そういえば仕事はどうしたの?他の7賢者たちに押し付けてきたの?でも、そういうことはしなさそうよね…」

「いえ。押し付けてきました。みんな私がいるからできないフリをしてたので私がいなくなったらちゃんとやるかと思いまして」

「性格わっる。あれ、いつもこんな感じだったっけ?」

「ひどいですね。性格が悪いとは。私は至って普通です」


そんなバカなとミスティアは思うが、流石に口には出さない。


「……楽しい」

「あんなに夜会は嫌だと騒いでいたのに?」

「忘れてよ。恥ずかしい」

「忘れませんよ」


そんなたわいもない会話。

ミスティアからすれば、そんなことも特別なのだ。

普通の人と同じようにということは、とても難しいから。

ミスティアは、こんな時間が続けばいいのにと思ったのだった。

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