第27話 ミスティア、夜会に行く

ミスティアはすぐに王城へと向かう。

なぜならば、この国に正式な訪問として訪れたとされているから。

それはとても好都合だった。

情報を集めるため、そして第二王子が接触してきそうながあったから。ちなみに、夜会を開くというのはヴィルフィールの案だ。



「賢術 私は『スロウス』の名を持つ者。この世界で怠惰に過ごすほど、私は強く、美しく。そしてそのまま生き続ける」



これは、ミスティアの力を解放する祝詞うただ。

7賢者の全員が違う祝詞うたを歌うことができ、これを歌うことで魔力が増えたり、質が良くなったりする。そして、本人がその力を使うときに身に纏うことができる。そのため、7賢者は基本、正式な服装というものがいらない。

ミスティアはそれを生かしたかったが、伯爵令嬢としても生きていたので毎回毎回新しく作らなければならなかったため、使い所がほとんどなかった。

悲しいことである。


「ってことで、折角ドレスやらなんやらを用意してくれたお城の方には申し訳ないけど、私はこれで行くのでー」

「あ、はい。了解しました。…つまり、強欲の賢者様も衣装はいらないということで、よろしいでしょうか?」

「そうだよ。いらない。ヴィルフィールの衣装はシンプルだけど、機能性がばっちしだからなあ。余計にいらないかも」


そうして、手伝いと思われる侍女さん達はミスティアの部屋を出ていった。

途端に暇になったミスティアは、前に買ってもらった宝石に魔力を込めることにした。色々と工夫をしたり、遊び心を加えてみたり。

夢中になっていると、ヴィルフィールが迎えに来たようだ。


「ミスティア、なんで魔力使ってるんですか」

「え、いいじゃん。だってすぐ回復するでしょ?」

「そうですけど……。まあ、私も人のことを言えないですしね」


ミスティアに魔力を使ったことを咎めたヴィルフィールだったが、自身も魔力を使っているので何も言わなくなった。

ヴィルフィールはふっと笑い、自然な動作でミスティアに腕を差し出す。

どうやら、エスコートはヴィルフィールがするらしい。

わかっていたことだが、少し緊張する。主に彼がミスティアにちょっかいをかけてこないかという理由でだが。


「ミスティア、行きましょう。……安心してください。ちゃんとエスコートしますから」

「頼んだわ。……いつ見てもその服はヴィルに似合いすぎているのよねー。羨ましいわ」

「おや、ミスティアも似合っていますよ」

「ありがとう。お世辞でもね」


そんなことを話していたら緊張もほぐれてきたのか、自然に口元が弧を描く。

その笑みは、誰もが見惚れてしまうほど美しく、恐ろしいものだった。

ミスティア達は、名前を呼ばれるのを待ってから、目の前の大きな扉の前に立つ。


「行きましょうか。……せいぜいあがいてくださいね、ミスティア。私、ミスティアの顔が苦痛に歪むところが見てみたいので」

「ひどいやつね。私の顔が歪むところを見たいなんて。…まあ、私はヴィルのその自信を打ち砕いてやりたいけどね」

「言いますねえ」

「そっちこそ」


直前にそんな会話をし、ミスティアは大きな扉をくぐり抜けた。

さあ、ミッションスタート先制攻撃だ。

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