第三章 婚約騒動の後
第26話 ミスティア、人間について考える
婚約騒動の後、ミスティアはすぐに国を出ようと思っていたが、急遽その予定を変えることにした。ちなみにその予定を変えやがったのはヴィルフィールだ。
ミスティアは煮え切らない怒りをどうぶつけようか考えていると、ヴィルフィールはこう言った。
「すみませんね。一つ、やらなければならないことがありまして」
「何?早く終わらせてよ。今私はムカついてんの」
「それが……すぐに終わらなさそうなんですよねえ……」
「はあ!?」
ヴィルフィールによると、あの婚約騒動で第二王子が第一王子から王位継承権を奪おうと考えた。なぜならば、ミスティアが第一王子との婚約を蹴ったからである。そのため、第二王子は王になるために今ミスティアと無理やり婚約しようと躍起になっているらしい。そのため、今は国から出ない方が良さそうだというヴィルフィールと国王の判断らしい。
「……第二王子を私がぶっ殺してくれば、いい話よね?」
「早まらないでください。まだ殺してはいけません。あいつを利用してこの国から色々と搾り取ってやらないと」
「うわぁ…。さすが強欲の賢者。奪い取れるものは全部奪い取るってか」
「その通りです。当たり前でしょう?」
「聞いた私が馬鹿だったわ……」
ミスティアはやはり、さっさと第二王子を殺した方が早いんじゃないかと思ったが、ヴィルフィールがミスティアを全力で、たとえ相打ちになったとしても止めると宣言したのでやめることにした。
序列一位の力は侮れないのである。ミスティアは威力の高い魔法が得意だが、その魔法すら薄い結界一枚で防がれてしまう。それほどまでに実力差があるのだ。
そんな相手に挑むなんて無謀すぎる。
「そういえば、なんで第二王子は王位継承権が欲しいわけ?私からしたらよく分からないんだけど?」
「それはそうでしょう。私たち賢者と人間は全く別の生物なのですから。分からなくて当然です。……まあ、そんなことはさておき。第二王子が王位継承権を欲しがる理由は単純です。彼は、兄より優れてると言いたいんですよ。ミスティア。貴女もそう言われたことがあったでしょう?主にお兄様に」
「そうだよ。でも、なんで?私が優れているのは当たり前でしょ?賢者なんだから」
そういうと、ヴィルフィールは少し呆れたような顔をしてこういった。
「人はそう思わないんですよ。ましてやほとんど同じ体の作りをした生き物なんですから。兄として妹に勝ちたい、優れていたい。という気持ちは人間に共通するものです。それは弟や妹だって同じで、兄より優れていると認めてほしい、姉よりもいい子だと思われたい。そういう劣等感は人間には存在するのです」
そう言われても、やはりミスティアには理解ができなかった。
賢者であるミスティアには同じ賢者でしか勝てない。それは世界がそう創ったのだから至極当たり前のこと。
でも、人間はそうは思わないらしい。
人間からすれば、賢者だからという理由は理解ができないものなのだ。
賢者が人間のことがわからないように。
賢者は自らが優れているのは当たり前だというが、それを人は傲慢だと言う。
だが、当たり前のことを述べているのに否定されるのが、賢者からすれば理解ができない。わからない。
………ならば、知ればいい。ミスティアは知識欲が特に貪欲であるのだから。
そう結論が出たところで、ミスティアはヴィルフィールにこういった。
「ヴィル。私は人間が理解できない。でも、知ることはできるから、もっと知りたいわ。そして、第二王子のことをさっさと片付けてこの国から出る!!」
「……そうですね。頑張りましょう」
そうして、二人は行動を始めた。
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