第21話 ミスティア、戸惑う

さて、まず広間に入ると王と王妃が玉座に座っているのが見えた。

まずはやっぱり挨拶からだろうか?

そう思い、ヴィルフィールの方をチラッとみてみたが、ヴィルフィールはその視線に気がつくと、ミスティアに小声でこう言ってきた。


「ミスティア、くれぐれも問題は起こさないでくださいね。起こしてもいいですけど、余計めんどくさくなるので」

「大丈夫よ。私がそんなに無鉄砲に見える?」

「見えます」


全く失礼なやつだ。

そう思ったので、ミスティアはヴィルフィールの足を踏みつけた。

ヴィルフィールにあっさり避けられてしまったが、まあいいだろう。


「「国王陛下、並びに王妃殿下。ご尊顔を排し、恐悦至極に存じます」」


ミスティアとヴィルフィールは同じように玉座の前で跪く。

ちなみに、ミスティアとヴィルフィールの方が立場は上だ。だが、世間体というものがあるため、わざわざこんなことをしなければならないのだ。


(世間体なんてどうでもいいけどね。だって、私たち7賢者が本気でやれば世界は軽く滅びるもの)


ミスティアはそう思うが、ヴィルフィールはこういう時はちゃんとやるので、ミスティアも合わせなければならない。

つくづく面倒なシステムだと思う。


「面をあげよ」


その声で、ミスティアとヴィルフィールは顔を上げる。

国王の顔を一目見て、ミスティアはうわあ、と思ってしまったが、なんとか顔に出さずにすんだ。

何も見た目やそういうものではない。ミスティアが覗いたのは、国王の心の内側だ。7賢者の能力の一つであり、この人の心を読んだりする力はミスティアが一番長けている。

そして、ミスティアが見た国王の心の内側は今まで見た中で最も黒く、最も汚れていると言って過言ではないだろう。

ミスティアはその心の内の汚さに吐き気がしてきたが、ヴィルフィールはよくこんなに心の汚れているやつを見て平気でいられるなと思った。


(私が過去で見た中で歴代最悪得点を叩き出す勢いで汚れてる。これはどう足掻いても一生このままね)


ミスティアが国王の話をそうやって聞き流していると、不意にミスティアたちが入ってきた扉の前に誰かが来る気配がした。

気になったミスティアはヴィルフィールに問いかける。


(……ヴィル、扉の前のやつは誰?)

(あれは……)


7賢者同士は念話ができるので、それを使ってヴィルフィールに声をかけたすぐだった。

扉が乱暴に開かれ、大広間に一人の男性が入ってくる。


「父上!7賢者が私の婚約者に選ばれたと聞きましたが…冗談ですよね!?しかもよりにもよってと!」

「アレス!お前を読んだ覚えはないぞ!」

「ですが!!」

「ちょっと待って!!」


ミスティアは思わず声を上げてしまった。隣でヴィルフィールが何やってるんですかと言わんばかりの顔をしているが、思わず声を荒げてしまう。

それほどミスティアには大事な案件だ。



って誰なの!!?」



ミスティアが気になったのはそこともう一つあるが、こちらの方が大切だ。

とは、その名の通り怠惰の賢者ミスティアのことである。

ただ、ミスティアは国内で呼ばれていたという名前しか知らず、魔女と言われる覚えもどこにもなかった。


(怠惰のっていうくらいだから私よね!?しかも魔女だし!賢者ならわかるけど魔女って何!?私隣国とか接点ないしそんな恐れられる感じじゃないわよ!?)


ミスティアが心の中で混乱している時、尚も王子と国王は言い合いをしていた。

その状況の中、ヴィルフィールだけ冷静だった。

こうなることがわかっていたからだ。ミスティアは顔に出やすい性質タチだし、王子と国王が言い合うのも知っていた。

だからこそ、この場はヴィルフィールが収めるべきだろう。


「落ち着いてください」


その声に、言い合いをしていた国王と王子はピタリと止まり、ミスティアはヴィルフィールの方向を向いた。


「まずは部屋を変えましょう。ここは貴族たちもいますからね。ここから先は部屋を変えて」

「そうね。あなた、早く部屋を変えるわよ。アレスも、そんなところに突っ立っていないで動きなさい」


ヴィルフィールの言葉に、王妃がすかさず賛成する。

そのお陰で、ミスティアたちは部屋を変えることにしたのだった。

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