おやき

sowami

第1話

 最後の晩餐は未定かもしれないが人生初めての食事は離乳食と決まっている。

離乳食とは母乳やミルクだけでは十分な栄養素を得られなくなる頃、生後5-6ヶ月から開始する。開始時期は早すぎても遅すぎてもいけない。始めの1週間はお粥から始め、食べる練習とアレルギーチェックを兼ねて様々な食材にチャレンジしていく。

 遡ること3年前、初めての育児に麻美はアップアップしていた。というのも、夫の慎二は平日は早朝に家を出て帰宅するのは深夜だ。休日も何かにつけ仕事をしているように思えた。加えて双方の実家は遠く、それまで仕事と家の往復をしていただけなので住んでいる地域に友人などいなかった。

 長女の茉莉奈が生後5ヵ月になったので離乳食を開始することにした。予想はしていたがそうそう上手くは食べてもらえない。しかも、かなり不味そうな表情をするのだ。

「茉莉奈、お粥不味そうに食べるんだよね。しかもベーって出しちゃうの。温度やタイミングとか色々と工夫しているんだけど上手くいかなくて。せっかく作ったのに片付けもすごく大変で。すごく嫌になっちゃうの」

「それは作り方が下手なんじゃないの」

いつもこうだ。ただ愚痴を聞いてもらいたいだけなのに、共感もなくアドバイスされる。あぁ、言うんじゃなかった。

「これ食べさせなよ」

翌日、夫がベビーフードを差し出してきた。確かにそうかもしれないが複雑な気分だった。初めての子だから出来うる限り手作りしたい気持ちが拭えなかった。

 今思えば、第一子は本当に空回りしていた。丁寧な暮らしをしたいが細切れ睡眠、慣れない育児に悪戦苦闘し自分で自分の首を絞めていた。人や物、サービスに頼ればよかったのだ。ましてやコロナ以前、楽しく目一杯お出かけもすればよかった。

 時は流れ、茉莉奈は3歳になった。その翌月には弟となる第二子が誕生した。

茉莉奈は今でこそ好き嫌いなく食べるようになったが始めの数年間は本当に大変だった。1歳になるとよく食べるようになったが、その後バナナやカニパンしか食べない日々が続き気がつくと偏食が終わっていた。(偏食の対策基本は楽しく食事をすることなのでそれだけは徹底した。それが功を奏したのかな。)ただ、今回は赤ちゃん返りのひとつとしてお握りしか食べなくなってしまった。それを見た義母に虐待だと散々非難された。文字を見るのもしんどい産褥期だというのにLINEで長文を送りつけてきた。挙げ句の果てに、茉莉奈に罵声を浴びせ食事を無理やり食べさせていた。夫は取り合ってくれなかった。後日義父にも相談したがこちらも同様に取り合ってくれなかった。茉莉奈は後日、何故ママは守ってくれなかったのかと静かに泣きながら訴えてきた。謝ることしかできなかった。(産後の手伝いに来てもらっている手前、反論できなかった。情けない。どうか食事を嫌いにならないで。)

 第二子の隆志も気がつくともうすぐ生後5ヵ月になる。そう、離乳食のはじまりなのだ。茉莉奈の時とは異なり、Twitterをやっていた。同じ月齢のフォロワーのタイムラインには『補完食』という聴き慣れない単語が飛び交うようになっていた。特徴として離乳食が噛んで飲み込む練習を重視するのに対し、補完食は栄養重視なのだ。3年前の茉莉奈は昼夜問わず、ぐずりったりギャン泣きしてばかりだった。どうやらこれは鉄不足が関係しているらしい。母乳に足りない栄養素を補うだけ、こどものペースに合わせ無理強いしなくて良いといった考え方も気に入り今回は補完食で離乳食を進めることにした。手作りだと不足しやすい栄養素があるのも事実。補完食は栄養補給が目的なのでベビーフードを積極的に使用して良いそうだ。

 補完食が始まると、初めての食材のみ手作りし他はベビーフードにすることにした。生後9ヶ月頃になると、Twitterのタイムラインがつかみ食べデビューの話題一色となった。つかみ食べは月齢に関係なくお座りができるようになるのが開始のサインのひとつである。食べ物を触ったり握ったりすることでかたさや触感の体験を通して食べ物への興味が広がり、自分で食べようとする意欲が高まることに繋がる。つかみ食べは野菜スティックでも良いが栄養面でおやきが良いらしい。

 おやきといえば、長野県の郷土料理が一番に思い浮かぶ。また、大判焼きや今川焼きも北海道などではおやきと呼ぶらしい。補完食(離乳食)では


 そこで、家にあるもので久しぶりに手作りすることにした。

【材料】

じゃがいも(中) 1個

鶏ささみフレーク(油無添加) 1缶

青のり ひとつまみ

片栗粉 小さじ1

【作り方】

①皮をむきひと口大に切ったじゃがいもと大さじ1の水を耐熱容器に入れる。

ふんわりとラップをして電子レンジで600W、4分間温める。

②水切りした鶏ささみフレーク1缶、青のりを①に加え、じゃがいもをつぶしながら混ぜる。その後片栗粉を加えて混ぜ、ひと口大の小判型のものを数個作る。

③フライパンにサラダ油小さじ1を熱し、②を並べしっかり焼き目が両面についたら完成。

名付けて『じゃがささおやき』の完成‼︎

試しに茉莉奈に試食してもらったが、試食で大半がなくなってしまう程だった。

 早速、隆志にも与えてみたがにぎにぎして眺めるだけだった。口にもっていくとどうやら鶏ささみがお気に召さない様子。残念。だけども、あの茉莉奈が気に入ってくれたのでそれで十分‼︎ 残りは茉莉奈と2人で完食した程だ。(赤ちゃん返りもなくなって今では立派なお姉さん‼︎ 食事も嫌いにならなくて良かった。)いつか、隆志も食べてくれるといいな。

 

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おやき sowami @sowami32

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